117 鬼作、泉より発つ。

117 鬼作、泉より発つ。


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(一日目 PM16:00)

山を歩きながら、鬼作はこれからのことを考えた。
ひとしきり考えた末、鬼作は泉を離れることにした。
山頂の火口より少し降りた視界の開けた場所に立つ。
地図とコンパスを取り出して、現在地を確認する。
島の中央より北西よりの山にいることが分かった。
ここから東に大きな森があることも分かった。
さらにいくつか確認すると、鬼作は彼の手駒のもとへ帰ることにした。


辺りに誰もいないことを確認すると、
茂みを抜けアズライトの待つ泉に近づいた。
何か良からぬことでも考えていたのか、
アズライトの表情には翳りがある。
無論、それを見逃す鬼作ではない。
(きちんと「めんたる・けあ」もしてやんねぇとな。
やれやれぇ、手間のかかる兄ちゃんだぜ。)
「いかがなさいましたか?」
真剣な面持ちを取り繕ろってノートにそう書くと、
アズライトの瞳を覗き込む。
自分の心を見透かされたように思ったのか、少し目を泳がせる。
「いえ、何でもないんです。」
そこまで書いてアズライトの手が空をさまよう。
視線を瞳からそらさずに、力づけるように鬼作は強くうなずいてやる。
「少し、昔のことを思い出してしまって・・・」
几帳面な文字が紙面に並ぶ。
「レティシア様のことで・・・ございますね?」
そこまで書いて、一呼吸置く。
「鬼作めには何も出来ませんが、大丈夫でございます。
きっともう一度お会いになれましょう。」
そういって人のよさそうな笑みを浮かべる。
いささか的外れなこの男の励まし
――実際には励ましですらないが――でも、
自分のことを心配してくれるのだと考えると、
アズライトは申し訳ないような嬉しいような、
なんともむず痒い気持ちになる。
(うん、この人に心配かけちゃダメだ。しっかりしないと。)



アズライトの表情が平静を取り戻したのを見計らって、
鬼作は出発のことを切り出した。
「このままここに留まりつづけては、
誰かに殺されるのを待つのと同じことでございます。
遭遇戦において『いにしあてぃぶ』を取るためにも、
積極的に行動をすべきなのではないでしょうか?」
メモを書く手を休めて、アズライトの反応をうかがう。
アズライトが続きを促すように首肯すると、短い黒髪が揺れる。
「ありがとうございます。
ではまず我々の行動の方針を説明させていただきます。」
そういって、ズックから地図を取り出し一点を指差す。
「我々の現在地はここ、そして通信設備のある学校はここでございます。
もちろん、直行して救援を求めるのが目的なのでございますが、
この状況では人目を避けつつ進むのが上策と申せましょう。
・・・そこで、まず夕闇に乗じて森へと参ります。」
地図の上で指をスライドさせて、再びアズライトのほうに向き直る。
先の「凶」については拒絶されたものの、
この程度の提案ならアズライトは絶対に断らないことを
鬼作はすでに見抜いている。
この狡猾な男がその上で「確認」という形をとるのは、
それがアズライトを喜ばせることを知っているからである。


「ついで森の東側外周を移動しまして夜のうちに廃村を抜けます。
おそらく朝方には学校につけましょうが
行動は隠密性を以って最上といたします。
・・・ですので日中を校舎北の森にて過ごし、
再び闇にまぎれて校内に進入しようと思うのですが・・・」
再び手を止めてアズライトの意見を求めるポーズをとる。
アズライトは短く「はい、それで良いです」と書き込んだ。
鬼作はそれを見て短くうなずくと
「では、参りましょう」と言って立ち上がり
二人分の荷物を一つにまとめてそれを背負った。
アズライトも慌ててそれに倣って泉から出ると
おずおずと鬼作の肩をたたき膨らんだ鞄を指差す。
そして自分を指差す。
鬼作は「いいんでございますよ」というように首を振る。
自分に向けられた笑みを見て、
アズライトはまた少し幸せになってしまう。
(おーおー、真っ赤になっちまってよぉ。
おまえさんにゃ、これから俺を守ったり、
主催者どもとしこたま戦ってもらったり、
色々とやってもらわなきゃら何ねぇからなぁ。
荷物くらいは俺が持ってやるさぁ。)



【アズライト】
【現在地:泉】
【スタンス:鬼作と行動】
【武器:???】
【備考:変性不可、左眼負傷、左手喪失】

【鬼作】
【現在地:同上】
【スタンス:とりあえず学校へ
:らすとまんすたんでぃんぐ】
【武器:コンバットナイフ・警棒】




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