123 追憶の澱み

123 追憶の澱み


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私は森の植物から創られた。
朽木双葉様。
それが私の主人の名前だ。
うろのうちにて眠ること数刻、
私の仲間たちが運んできた薬草と食料のおかげで
意識を保っていられるようになられた双葉様は私を創られた。
このような森の中、何の準備もなく複雑な式を組み上げたところから察するに
我が主人はかなりの術者なのだろう。
(あとで聞いた話によると、彼女は千年来続いた術者の家系なのだそうだ!)
命を受け、初めて目を開いた私に双葉様は言われた。
「あなたの名前は星川翼、いいわね?」


その名前は知っている。
森の仲間から双葉様の話
――植物の声を聞くことのできる少女の話――
を聞いていたから。
そしてその傍らに会った少年の話も。
「分かりました、双葉様」
答えると,
「双葉様なんて呼ばなくていいわよ」
とおっしゃられた。
「しかし主人を呼び捨てにはできません」
「・・・・・・双葉ちゃん」
少し思案され、そのように呼ぶように言われた。
この呼び名も知っている。
あの少年が主人を呼んでいた呼び方だ。
だから、私は「双葉ちゃん」と呼ぶことにした。
「痛みは引きましたでしょうか、双葉ちゃん?」
すると今度は言葉遣いを注意されてしまった。



薄暗いうろの中二人きり、
僕の胸に背を預けた双葉ちゃんは訥々と語り始めた。
自分の生家のこと、これまでの自分のこと、
山の中にいたはずなのに覚醒するとここにいて甚く驚いたこと、
ここで出会った王子様を名乗る少年のこと、
そして、その少年が目の前で死んだこと。
「それで双葉ちゃんはこれからどうするつもり?」
彼女と話すこと数時間、話し方を注意されることもずいぶん減ってきた。
「どうしよう、星川?」
問い返す彼女は迷っているように見えたが、
人に意見を求めるときは往々にして自分の中で答えは出ているものだ。
「双葉ちゃんは、どうしたいの?」
「私は・・・しばらく様子を見ようと思う。」
「うん。どんなことがあっても」
しなだれかかる双葉ちゃんの重みを感じながら答えた。
「僕が守ってあげるよ。」
振り返って嬉しいような悲しいような顔をして僕を見る。
僕の素直な気持ち。
僕のレーゾンデートル。
僕は何を引き換えにしても彼女を守らなければならない。
彼女はときおり僕のほうを見る。
花の匂いのする彼女の髪から覗く双眸に宿った暗い光が気にかかる。


やがて、先ほど放った最後の式神が戻ってくる気配がした。
どうやら余計な闖入者も連れてきたようだ。
「どうしようか?」
意識が戻ったあと双葉ちゃんは少しずつこの洞の防備を固め始めた。
そう簡単にはここまで突破できないだろう。
「さっさと追っ払うわ。」
うろに通された枯れ木は空洞になっており、伝声管のように音を運ぶ。

(はぁ・・・、またアンタなの?)



【朽木双葉】
【現在地:北の森】
【スタンス:静観】




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