125 名探偵の優雅なる分析

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(17:40 学校内)

「………成る程な、これで21番死亡……と」
古びた学校内の一室、海原琢磨呂(No.13)は机に広げている紙に何か書きこんだ。
次に盗聴機のスイッチを『15』に切り替える。
聞こえてくるのは陽気な声。少し反響している所からして入浴中だろうか。
『ングッ……ングッ……ぷぁ〜〜〜っ!美味え〜〜〜っ!』
「…………まだ風呂に入っているのか?大したものだ……」
その豪胆さに舌を巻きつつ、再び記入。
「フム、とりあえずこれで現状の生存者の状況は出揃ったか……」
そう言うと琢磨呂は盗聴機の電源を一回落とし、改めてその紙に向き直った。
そろそろ生き残りも半数を切ろうとしている。今後の自分の動きの方針を決める上で
再度全体の『流れ』を把握する必要があった。
「それができるのもこの盗聴機を持っている私にしかできない行為……名探偵
の選ばれし特権と言う奴だな、ウム」
そう嘯きつつ更に紙の上にペンを走らせる。

「現在の私と神楽を除く生存者が……」



チームA(目的・主催者打倒。主に02の気分次第)
  01(女/個人名ユリーシャ)・02(男/個人名ランス/リーダー)
  34(女/個人名アリス)
チームB(目的・日常生活)
  07(男/個人名薫)・15(女/個人名タカ/リーダー)
  38(女/個人名まひる)
チームC(目的・主催者打倒。及び首輪の解除)
  26(男/個人名グレン・コリンズ)・32(女/個人名法条まりな)/リーダー)
チームD(目的・主催者打倒)
  08(男/個人名恭也/リーダー)・40(女/個人名知佳)
チームE(目的・表面上は主催者打倒。ただし疑問点多し)
  05(男/個人名鬼作/リーダー)・14(男/個人名アズライト)
チームF(目的・生存。自分達以外の殺戮及び陵辱)
  03(男/個人名臭作/リーダー)・28(女/個人名しおり、もしくはさおり)
個人行動中
  12(男/個人名魔窟堂)・17(男/個人名真人)
  19(女/個人名藍)・23(女/個人名アイン又はファントム)
  24(女/個人名ナミ)・36(女/不明)
不明
  16(不明/不明)

一部不明となっているのは、対象が誰かに呼ばれたり、また名乗ったりしていない
為である。


「まず用心するべきはA、及びEだ……」
共に戦闘力では群を抜いている参加者がいるチームである。
特にチームEの14番アズライトは、05番と合流するまで様々な相手を瞬殺してきている。
その早さがどの程度か実際には分からないが、現参加者の中でトップ級なのは
疑い無いだろう。
一方、チームAの02番ランス、これはこれで危険な相手である。
この異常な状況に全く動じておらず、強力なリーダーシップを発揮してチーム
を引っ張っている。また、人を斬る事にも迷いが無い。
おそらく似たような状況を幾度も経験しているのだろう。
このゲームにおいて、それは強力なイニシアチブとなる。
「……だが、ここには爆弾がある」
01番ユリーシャ。彼女はランスに自分が役立たずと思われるのを恐れるあまり
31番秋穂を殺害している。
現在は02番・34番と別行動となっているが、再合流した場合34番を殺害する可能性もある。
結果どうなるかまではまだ予測できないが、弱体化は避けられないと思われる。
いずれにせよ、この2チームとの現時点での接触は可能な限り避けるべきだろう。

その反面、琢磨呂としても接触を試みたいチームもあった。
「とはいえチームBは漁港、Cは灯台か……少し遠いな……」
チームBに関しては、最も予想外の行動を取ったチームである。
主催者打倒を念頭に置くでもなく、生存の為に殺戮側に回る事も無く。
本来ならば終盤まで無視しても構わない存在と言える。
だが、リーダーである15番タカの肉体能力及び彼女が所持するバズーカは最終的
にどちらに回るにせよ、かなりの脅威となるだろう。
その時を見越して、今から友好的な接触をしておけばゆくゆく有利となる筈だ。
「まあ、アイツらと同じ目に会うのだけは避けたいが……」
数時間前、彼女に文字通り搾り取られた男達のうめき声を思い出し、琢磨呂の肌に鳥肌が立った。


更に重要なのがチームCである。
今もがっちりと琢磨呂の首に嵌っている銀の首輪。
これを取り外せそうなのは、今の所このチームしかいない。
幸いにして彼女等のスタンスは主催者打倒である。同志のような顔をして行けば
すぐに解除してくれるであろう。
加えて、32番法条まりなのような頭脳派かつ行動派の女性は、琢磨呂にしても
一男性として好みとする所であった。
神楽が普通に動けるようになったら接触を試みるのも良いかもしれない。
チームD,Fについては未だ未知数な面が多い。もう少し様子見が必要だろう。

「あとの問題は……こいつらだな……」
そう呟きつつ指で紙をトントン叩く。
チームを組まないで、もしくは存在していたチームが崩壊して個人行動を行っている者達。
いずれも注意が必要な連中だが、特に琢磨呂が気にかかっているのは36番と16番だった。

36番は少女である事は分かるのだが、それ以外に付いては殆ど不明である。
誰かと接触する事自体が存在せず、独り言も滅多にしない。
ただ、あちこちに罠を張り巡らしているであろう事が、おぼろげに分かる程度である。
おそらく、ランスやファントムと同様このような事態に慣れていると思われる。
一筋縄ではいかない相手だろう。


「……だが、こいつはまだいい……」

16番。
これについては全く分からない。
琢磨呂が盗聴機の存在に気がついた時点で、16番からの応答は無かった。
既に死亡したのかとも思ったが、その後の定時放送でその番号は呼ばれてはいない。
つまり、16番は既に首輪から解放されている事になる。
完全なイレギュラー。
これがどう動くのか、またどうやって解放できたのか。重要な問題だった。
「……さて、これからどうする?」
自分に問い掛ける。
自分の手札は回復能力を持つ(今は無理だが)巫女さんが一人。
あとは盗聴機と―――拳銃が一丁。
周囲の相手の手札と比べると、いささか見劣りは否めない。
手札を増やすために動くか、まだ時を待つか。

……ザ……ザザッ……

と、その時外からスピーカーのノイズが聞こえた。
「……もうそんな時間か……」
そう小さく琢磨呂は言うと、再び紙を手にして耳をすませた。
この島に来て3回目の定時放送が、始まろうとしていた。



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