094 OLは見た!

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(14:30)

陽光が優しく森を包み込んでいた。
数時間前の雨の影響は殆ど消え、乾いた北風が木々の間を吹き抜けてゆく。

そんな東の森北部を、秋穂は右肩上がりにひょこひょこと、
バランス悪く歩いていた。
「あれ?ここはさっき見たような……」
もとい、さ迷っていた。
ブルーグレーのスーツとタイトスカートは生乾きでよれよれ。
その下のブラウンのストッキングは、藪や隆根に破れずたずた。
そしてさらに、その下。
彼女は、靴を履いていなかった。
ユリーシャに洞窟を追い出された時、脱いでいたヒールを回収できなかったからだ。

彼女の全身から、匂うように漂う疲弊と憔悴。
しかし、その瞳には確かな意志が感じられ、背筋はピンと伸びている。
篠原秋穂は、そういう女だ。

気付くと、地面が腐葉土からごつごつした岩場と苔に変わりつつあった。
「いつつつつ……」
彼女は苦痛に顔を顰めつつ座り込み、捻挫した足首をさすろうとして……
「……あれ?」
なんとは無しに目をやった地面の苔に、一組の足跡を発見した。

「この足跡は……ヒールね。
 私みたいなフツーのOLが、他にも連れて来られてるのかな?
 ……ヒール……私みたいなOL?
 ……と、言うことは、よ?」
彼女は何かにひっかかりつつ、視界を前方に戻す。
―――見覚えのある洞窟がぽっかりと口を開けていた。
「はぁ……やっぱり戻って来ちゃったってわけね……」
秋穂はユリーシャの思い詰めた眼差しと、可憐な笑顔を交互に思い出す。
と、その時。

「くそぉぉぉぉ!!」

洞窟の中から、若い男の怒りに満ちた叫びが響いた。
続いて、ドガッという破壊音が耳に届く。
「!?」
秋穂は反射的に生い茂る羊歯に身を隠した。
(ユリーシャちゃんが襲われている?)
彼女は咄嗟にそう思い立ったが、暫くしてもユリーシャの悲鳴は聞こえてこない。
それどころか、
「ランスはユリーシャおねえさんに弱かったりぃ〜」
いかにも緊張感のない頭の悪そうな声の、揶揄する言葉が聞こえて来た。
(どういうこと?)

気になった秋穂はこそこそと洞窟に近き、中の様子をこっそりと覗き見た。



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