095 悪魔、召喚
095 悪魔、召喚
前の話へ<< 050話〜099話へ >>次の話へ
下へ 第三回放送までへ
(14:40)
「うがぁぁぁ!!俺様のハイパー兵器がぁぁぁ!!」
薄暗い洞窟の中で、全裸のランスが頭を抱えて叫んでいた。
海岸での戦闘の後、再び洞窟に戻ってきたランスはユリ−シャで
自身の性能を試したが、結果はアリスとの時と同じであった。
立たないのである。
「あのクサレ魔道士めぇぇぇぇ!大した魔法も使えんくせに、
俺様にこんな呪いをかけるとはぁ!!」
ドガッ
洞窟の壁にランスのキックが炸裂する。
「くそぉぉぉぉ!!」
そんなことをしてもただ壁が少し崩れるだけで、
ランスの鬱憤はまったく晴れることは無く、ランスはまた叫ぶだけであった。
「ランスさん…少し落ち着いてください」
ユリ−シャがそっとランスの腕に抱きつく。
ギロッと、ランスがユリ−シャをにらむ。
「ひっ…」
ユリーシャは息を飲んだ。
ただでさえ凄みのあるランスが、ハイパー兵器を失っているのである。
その睨みは、常人なら腰が抜けるような凄みがあった。
しかし、気丈にもユリ−シャは目を逸らさなかった。
慈しむような、怯える子犬のような目でランスを見上げる。
ユリーシャの身体は震えていた。それがランスの腕にも伝わる。
「……ちっ」
ランスはユリ−シャのそんな視線から逃げるようにその場にどかりと座り込んで
頭をガリガリとかきむしる。
その姿を見て、ほっとユリーシャは胸をなでおろす。
「ランスはユリーシャおねえさんに弱かったりぃ〜」
場の空気から緊張感が取れたからか、いきなりアリスがランスに抱きつく。
「うるせぇ!」
ゴッチン
ランスの拳骨がアリスの頭に落ちる。
「ちょ、ちょ〜〜ぜついった〜〜!なんでアリスが二度もゲンコでゴッチン
されないといけない〜〜」
アリスは頭を抑えてゴロゴロと地面を転がると、涙目になってランスに抗議した。
「大丈夫ですよ。ランスさんはちゃんと手加減していますから…」
そんなアリスをユリーシャは、ランスを弁護しつつまるで母親のようにあやしてやる。
「フン…」
ランスは仏頂面をして、そんなユリーシャを見た。
『シィルみてぇなこと言いやがって……さっきだって、
ユリーシャとアイツが重なって見えやがった…
シィル…シィルか…』
ピンクのぽわぽわした髪の少女がランスの脳裏に浮かんで、消えた。
「アリス!お前は闇夜を統べる大魔王なんだろう。
それなら、あのヘタレ魔法使いの呪いくらい、ずばっと解けんのか!?」
あれからしばらくたったが、ランスがいまだ素っ裸であるところを見ると、
まだ諦めていなかったらしい。
「ちょ〜〜ぜつ無理だったり。
あたしはマホーなんて複雑なものべんきょ〜してないもん」
「か〜、ほんとにお前は役に立たんな!」
「ちょ〜〜ぜつおこれる!
マホーなんて人間が、魔力を制御するためにめんどくさく考えただけじゃん!
悪魔なわたしが知るわけないじゃん、ぷんすか!」
まるで子供のけんかである。
「あの…とりあえずここを脱出することを考えては…」
同じファンタジー世界でも魔法という物が存在しない世界出身のユリーシャは、
自然と二人の諌め役にまわっていた。
魔法という概念がない分だけ冷静なのである。
「俺のハイパー兵器が使い物にならなくなったこと以上の問題があるか!」
がーっと、ランスが吼えた。
「まったく…悪魔なくせにエッチ以外に役にたたんとはフェリスと一緒だな……
……………………フェリス?」
キラーンとランスの頭に閃くものがあった。
「がははははは!そうだ、フェリスだ!
あいつならこの呪いを解けるに違いない!!
さすが、俺様だ!」
「ランスがついにこわれちゃったり〜〜」
「あの…ランスさん?」
突然立ち上がって馬鹿笑いをするランスを二人は心配そうに見上げた。
が、そんな二人の声はランスに聞こえていない。
「がはははは、ご主人様がお呼びだ!フェリーーース!!」
ぼん
小さな爆発が起きると、三人の前にいかにも悪魔という
格好をした一人の悪魔の少女が立っていた。
「お呼びでしょうか…ご主人様」
悪魔の声は……凄く嫌そうだった。
突然目の前に現れた悪魔の姿にユリーシャとアリスは唖然とするしかなった。
その姿は同じ悪魔であるアリスメンディより、悪魔らしい。
「お呼びでしょうか…ご主人様」
「がははははは!当然だろう。用が無ければ呼ばんわ!」
「はぁ…この状況でよくそんなことが言えるわね…」
「がははははは!俺様はスーパーで無敵な男だ!
どんな状況であろうと変わりはせんわ!」
さっきまでハイパー兵器を無くして暴れまくっていた男の台詞とは思えない。
『…えっ?』
自分の素晴らしい(と思い込んでいる)アイデアに酔いしれているランスと、
フェリスを見て呆然としているアリスは気付かなかったようだが、
ユリーシャはフェリスの言った重大なことに気付いた。
「あの、ランスさん」
「フェリス!お前を呼んだのは他でもない!俺様にかけられた呪いを解け!」
ユリーシャの声はランスに届いていなかった。
「呪いを解けって・・・無理ですよ、ご主人様。
かけるのならともかく、解くのは悪魔の領分じゃないですから」
「なにぃ!お前もか!」
「あの……ランスさん」
「それに、同じ世界ならまだしも、異世界の呪いなので……」
「かーーーーっ、使えん!」
「あの……」
ユリーシャの声は、ランスとフェリスに無視されるたびに小さくなってゆく。
その様子に気付いたのは、やはり会話に参加できていないアリスだった。
「はいはいは〜〜〜〜〜〜〜い!!」
アリスはランスの首っ玉に飛びつくと、強引に顔の向きをユリーシャへと向ける。
「ユリーシャおねえさんが聞きたいこと、あるとかないとか」
「え、あの……」
「はいそれでは、は〜〜〜りきっていってみよお!
3、2、1、きゅー!!」
「あの・・・私達がどうしてこんな事になったのか知っているのですか?
まるで、この世界がまるで私達の居た世界とは違うようにお話しになられてますが・・・」
ランスの陰に隠れるようにして、ユリーシャはフェリスに尋ねた。
危害は加えないだろうと思っていても、人とは異なる肌や雰囲気は、
ユリーシャにとって馴染めるものではなかった。
「なに?フェリス、知っているのか!?」
さすがのランスもことの重大性に気付いたようだ。
「だから、呼ばれたくなかったんですよ…はぁ…」
「むぅ!本来なら今すぐ!お仕置きだが、後回しにしてやる。
ちゃっちゃと説明しろ!
「結局はするんじゃないですか…」
ギロッ
ランスはフェリスをにらみつける。
「解りました!説明しますよ!」
「うむ、さっさとしろ」
「はい、良いですか。この世界は私達の世界、
つまりはご主人様たちの住んでいたところ違います。」
「そんなことはとっくに解っていらぁ!
俺様達が知りたいのは誰がどうして、どうやって、何の目的で俺様たちをここに呼んだか!
そして、どうやって帰れるかだ!」
「説明しますから聞いてくださいってば!」
「ランスさん、聞いてあげましょう」
ユリーシャは先ほどと同じようにランスの腕をとる。
「……ちっ、続けろ」
「ご主人様たちをここに集め、この島を作り上げたのはルドラサウムです。」
「ルドラサウナ?なんだそりゃ?」
「ルドラサウムです。ご主人様たち人間や大陸を作り上げた創造神です。」
「聞いたことが無いな…ユリーシャとアリスはどうだ?」
「いえ…私も聞いたことがありません。」
「わたしもしんな〜い。」
「ルドラサウムはご主人様たちの世界においての創造神ですから、
そちらの二人が知らないのも当然ですし、ルドラサウムの名前は
ご主人様の時代では既に知っている者の存在自体が稀有です。」
「前に俺様をユプシロンに飛ばした光の神とかいうヤツの親玉みたいなものか?」
「ちょっと違いますけど、ニュアンス的には合ってます。」
「けっ、その創造神サマが何の目的で俺様たちを呼び出しやがったんだ?」
「そこまでは……」
「だーーーっ、じゃあ宿題だ!」
「宿題?」
「そのルドラサムウとやらが何でこんなアホみたいなことをやっているのか!
どうしたらアイスまで戻れるのか!
ナマイキな主催者どもをズバッとやっつけるにはどうすればいいのか!
それを、次に呼び出すまでにぜーんぶ、完璧に調べ上げておけ!」
「全部ですか……
念のため聞きますけど、次っていつですか?」
「俺様の気が向いたときだ」
「はぁ〜っ。そう言うとは思ってましたけど」
フェリスは聞いたものに疲れが伝染してしまいそうな深い溜息を付くと、
「あんまり期待しないで下さいよ。
私にだって雲を掴むような話なんですから」
恨めしげな上目遣いでランスを見上げながら、煙と同化してゆく。
「あー、待て!
あと俺様のハイパー兵器の……」
宿題が追加されようとしている事に気付いたフェリスは、慌てて姿を消した。
ぼん。
「どどどど、どーするよどーするよ!?
そ〜ぞ〜神とかゆってたよ?
そ〜ぞ〜神てゆうと、アレだよ、ほら、神様の神様みたいなヒト!!
てゆーかキングオブ神様?」
アリスはランスの周りを意味も無くくるくる回りながら、
整理されないままの言葉を矢継ぎ早に浴びせ掛ける。
「……」
ユリーシャは小さくか細い両手にいっぱいの力を込めて、
ランスの右手をぎゅっと握り締めたまま、ランスの顔をただ黙って見ている。
顕れ方は正反対だが、2人は恐怖と混乱をランスに伝えていた。
暫くして、ようやくランスが口を開く。
「ルドなんちゃらとか言うヤツについては、俺達は何も知らん。
知らんものを考えても時間の無駄だ。怯えるのもな」
「でもでもでもでも……」
「……おっしゃることは、よくわかるのですが……」
「お前たちは俺様の女だ。
そして、この腕の中は世界で一番安全な場所だ」
ランスは右腕にユリーシャ、左腕にアリスを抱きかかえると、
「安心しろ」
力強くそう告げた。
相手は神で、ランスはただの人間だというのに―――
何の根拠もない言葉なのに―――
それだけで、2人は安心した。
(????)
どこなのかはわからない。
深い所。
深く、深く、深い―――その底で。
……暗闇がもぞりと蠢いた。
『クククッ、マサカ「魔ノモノ」ヲ呼ベル人間ガイルトハオモワナカッタナァ』
年寄りのような、若者のような、男のような、女のような声が空間に響いた。
よく解らない声の中、ただひどく喜んでいるというのは読み取れる。
『我々ノ存在ガ知レタトコロデ何モ問題ハナイダロウガ、
「魔ノモノ」ニ、セッカクノ舞台ヲ壊サレルノハ面白クナイ……』
暗闇の中心がぶるりと震えると、目に見えない波動が広がった。
まるで、油に広がる波紋のように重くどろりとした波動が…