107 バンカラ夜叉姫・転進編

107 バンカラ夜叉姫・転進編


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(1日目 14:40)

「お願い、死にたくないの… 助けて…」
おや? 
まだ波打ち際から夜叉姫の声が聞こえているね。
もちろん、彼女の姿はそこには無いんだけど。
あるのは雑貨屋で手に入れた、小型カセットテープレコーダーだけでさ。
あの慎重な夜叉姫がさ、自分の位置を特定されるようなことをするわけがないからね。

え、じゃあ彼女はどこに居るのかって?
さっきまで2人の西側の岩場をちょこちょこ移動していたけど、
今は、やや北西の岩の陰からちらりちらりと倒れた2人を観察しているよ。
……あれ?
よく見ると、なんだか微妙な顔をしているね。
ちょっと様子を見てみようか。





<沙霧の思考>

…レーダーの光点は、まだ消えませんね。
あの2人、倒れたまま動く気配は見せませんが… 気絶しているだけでしょうか?
それとも、もう絶命しているのでしょうか。
もう少し近寄れば判りそうなものですが、身を隠せる場所はこの先にはありませんし…
どうしましょうか。
もう一発、駄目押しでペットボトルロケットを発射しましょうか。
でも、そうすると塩素ガス地雷とスプレーボムの効率性を分析し辛くなりますね。
そうですね…
幸い、今のところこちらに向かってくる光点はないようですし、
暫くこのまま観察を続けることにしましょう。

それにしてもこの2人、少しは状況に疑いを持たなかったのですかね。
周囲の状況を確かめもせず、仕込んだカセットテープに向けて一直線……
普通、訝しみますよね?
きっと性欲だけでなく、頭のほうもトガリネズミ並なんでし

こほっ、こほっ。

何だか煙たいような……
―――え!?
何ですか、このもうもうと立ち込める白煙は。
いつの間に?
どこから?
あの2人は!?
…あ、煙に包まれて、彼らの周囲が見えない!?


こんな状況、私の想定外です。
仮にスプレーボムが、私の設置した他のトラップを破壊したり引火させたとしても、
この煙の量は有り得ません。
彼らの保持していた武器での反撃が開始されたということでしょうか?

レーダーの光点は移動していませんね。
あれだけのダメージを与えたのですから、普通に考えると彼らは気絶したままでしょう。
だとすると、所持していた何らかの道具が偶然反応したのでしょうか。
ですが、困りましたね。
この煙の量だと、遠目にも見えてしまうでしょうし、お肌にも悪そうです。
それに、彼らを目視観察できませんしね。

目視観察……?

考えてみれば、目視に拘らなくても死亡確認はできますね。
親切な主催者さんたちが、死亡者報告の放送をしてくださるでしょうから。
6時間おきの定時放送のようですから、次は18:00あたりですね。
その時の光点の状態と、「紳一」「真人」の名前が読み上げられるか否かで、
レーダーの死亡判定能力の真偽確認を取ることにしましょう。

おや?
村落にあった光点が北へ移動していますね。
これで、村落は久しぶりに無人になりましたね。
そうですね……
この地を撤退し、再び道具調達に向かうとしましょう。
昨晩は慌しくて、道具の吟味が十分に出来ませんでしたからね。
ついでに食料品店と井戸に、ここで試せなかったトラップでも設置しましょうか。

でも、暗くなる前には竜神社に到着しておきたいですね。
村落には16:30まで、と区切っておきましょうか。

<沙霧の思考、終了>





あ、見てよ、ほら。
夜叉姫が荷物を纏めて撤退するね。
この慎重すぎるほどの慎重さと、柔軟な状況判断力が彼女の強さなんだろうなぁ。

謎の煙のタネを明かすとね、スプレーボムで破れた紳一のデイバッグからね、
発煙筒がこぼれ落ちたんだよ。
で、同じくスプレーボムが吹っ飛ばした消石灰がそれに付着して引火、
結果、偶然発煙しちゃっただけなんだ。
筒の先端から定量の発煙をする分にはこれほど広がる煙じゃないんだけどね、
筒を熱で破って、一気の発煙だったから、霧状に広がったんだ。

―――あ、そうそう。
勝沼総帥と神条学園長は意識不明の重態だよ。
片や塩素ガスを大量吸引、片や背面にスプレーボムの散弾を多数被弾だからね。
ま、彼らはどっちかって言うと死んだほうが世のため人のためだから、
このまま彼岸の彼方まで旅立っちゃっても、全然かまわないんだけど。
こういう奴等だけをピックアップして殺すんなら、夜叉姫を応援するんだけどね。
次は遺作あたり、殺っちゃってくれないかなぁ……



【36番 月夜御名沙霧】
【現在位置:磯 → 北】




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