083 盤状の駒(配置編)
083 盤状の駒(配置編)
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運命の中に偶然は無い。
人間はある運命に出遭う前に自分でそれをつくっているのだ。
―――T・W・ウィルソン(米大統領)
(一日目 14:00 島南西の磯)
日の出から数時間、辺りには濃い霧が立ち昇っている。
月夜御名紗霧(No.36)は一人、何かを砂に埋めていた。
「……まずは実験ですね」
たった今埋め込んだ物―――家の雨どいから外したパイプ―――に耳を近づけ、
片手に持った紐を引っ張る。
―――カコーン―――……。
パイプの遥か遠くから小石の落ちる音が聞こえた。
「伝声管参号、準備良し」
満足げに頷くと、紗霧は今度は袋の中から固形燃料を取り出し、点火する。
青白い炎を上げて燃焼する固形燃料。
「あとは……」
その顔は平素通りの無表情ながらも、どことなく楽しげですらある。
続けて取り出したのは―――ロケット花火数十本。
「さて、それでは―――」
良く見ると彼女の周囲には数本のパイプが突き出ており、それらには『壱』から『参』
までの数字が刻まれていた。また、その近くには様々な色のビニールテープが巻かれた
紐が置かれており、それぞれどこか遠い所まで伸びているようである。
「こちらから攻めましょうか?」
紗霧はまるで散歩にいくような軽さで言った。
既にその岩場全体は紗霧の城―――否、要塞と化していた。
紐の一本一本は全て何処かの罠の起動スイッチになっており、致命的な物からあくまで
実験的なお遊びまで十数種仕掛けられており、この場所から発動させる事が―――
緊急時には別の場所からでも―――可能である。
更に埋め込まれた伝声管は数十m離れた所まで届いており、全く別の場所から声を発する
ことができる。
そして―――対首輪レーダー。
準備は万全であった。
「せいぜい私をてこずらせて欲しいですね……」
小さく呟き、伝声管の蓋を全て外す。
そして大きく息を吸って―――
「……キャアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!」
あらん限りの声で紗霧は叫んだ。
そして次の瞬間蓋を下ろし、手元のレーダーを見つめる。
数秒後、早くも少し離れた光点がいくつか動き始めた。
向かう所は―――この場所だ。
どうやら紗霧が計算した以上に声は遠くまで聞こえたようだ。
おそらくこちらに向かっている連中は、今の悲鳴の主を心配して向かって来ているのだろう。
心底うんざりした口調で紗霧は言った。
「やれやれ、本当にこの島にはお人好しが多いみたいですね……幻滅です。
これじゃ生き残るなんて無理に決まってます。絶対O%、愚かの極みです。
―――だから、ここで死んで下さい。その方が消費される酸素分だけお得ですから」
【月夜御名 紗霧】
【現在位置:島南西の磯】
【備考:周辺一帯に罠あり】