084 七草出立
084 七草出立
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(12:15)
雨は止み、涼しげな北風が羊歯の茂みを揺らしていた。
その奥―――朽ちかけた古木の手前に、幻想的な情景があった。
手のひらサイズの人形が七体、横一列に整列していたのだ。
彼ら全ては立烏帽子に真白な狩衣、漆黒の指貫といった平安風のいで立ちで、
目鼻はなく、白いのっぺらぼうと言った風情を醸し出している。
『私たちは、お姉さまをお守りしなければなりません』
老木の中―――いや、その老木の根付近、蔦に覆われたウロの奥から
声ではなく脳に直接響く何かが、そう告げた。
『お姉さまは今、重い怪我に意識を失っています。
私たちが手当てをしなければ、命を失ってしまうでしょう』
人形たちはその言葉を理解したかの如く、恭しく頭を垂れる。
彼らを吊っている糸はなく、体内にからくりも仕込まれていない。
それでも動くのは、陰陽師・朽木双葉が和紙を方代に作った式神たちだからだ。
『お姉さまに成り代わって命じます。
せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ。
あなたたちは、薬草を集めて来なさい。
棕櫚・芍薬・葛の根、紫蘇・水鬘の葉。青黴であれば、
この森に自生しているはずです』
人形のうち五体が胸前に笏を立て、一礼する。
『すずな、すずしろ。
あなたたちはお姉さまの周囲を見張りなさい。
近づく者あらば、私にすぐさま報告しなさい』
列の左端に位置取る残りの二体もまた、作法に適った承諾の合図を返す。
こうして、春の七草を模された小さな貴族たちは
それぞれに下された役割を果たすべく、森の中に散っていった。
【スタンス:待機潜伏、治療】
【能力制限:意識不明、怪我により重傷】