085 刻を超えた出会い
085 刻を超えた出会い
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狂える賢者、迷える剣士
グレンは1人、灯台の階段を上っていた。
先程の2人組は逃げていったものの、
いつまた自分からマナを奪う者が現れるか分からない。
「マナ…もう2度と離さない。マナを奪っていく奴は、
み〜んなお父さんがコロシテあげるからね…」
そうつぶやくグレンの目には、最早狂気しか映っていなかった。
………2度と会えないはずの最愛の「娘」に「再び会えた」という「事実」は、
彼から残り少ない正常な思考をも奪っていたのだろうか。
グレンは、気がついていなかった。
2人組を追い払った後、灯台の鍵をかけ忘れている事を。
今まさに、灯台の最下層に、1人の若者が侵入してきた事を。
そして………その結果が彼に決定的な「終局」をもたらす事を。
「ここからなら、島の大半は把握できるか。」
秋穂と別れて数刻。開け放たれた扉から灯台へと彼…恭也は入ってきていた。
…猪乃から受けた精神的ダメージは少し、回復してはいた。
元々の冷静沈着な性格に加え、幼少の頃から父と共に、
また父亡き後も武者修行を繰り返してきた恭也である。
死なない限り、敗北が終わりではない事は、十分承知していた。
落ちつきを取り戻した彼は、先程の自分を恥じ、
取りあえずこの島の現状を少しでも多く知るべく動いていたのだ。
この灯台を見つけ、入ったのも、この地の把握に役立つと思ったからである。
だが、奥義である「神速」を破られた事実、そしてこの「ゲーム」の掟が
彼を言いようのない不安に陥れる。
(神速が通用しない以上、俺は…本当に「誰か」を守る事ができるのか?)
(そして………万一の時、俺に人が殺せるのか?)
思考は堂々巡りを繰り返し、一向に答えは出そうにない。
「ん?」
ふと、恭也は歩みを止めた。彼が今いるのは、元は灯台守の為のものだったであろう部屋。
その奥から、微かに明かりがもれていたのだ。
(誰か…いるのか?)
懐の小太刀に手をやりつつ、半開きの扉から、慎重に中を覗きこむ。
…簡素なベッドの上に、1人の少女が横たわっていた。
上半身だけを起こして、あらぬ方向を見つめている。
(何故……こんな所に?)
恭也がそう思った瞬間…。
それまで検討違いの方向を向いていた少女が突然、扉の方を向いたかと思うと
「誰か…いるの?お父様?」
恭也は慌ててその場を離れようとしたが、少女の言葉に、どこか違和感を感じた。
出発前にざっと見た限り、参加者に親子連れはいなかったはずだ。
それに、その声色には、どこか聞き覚えがあった。
(神咲さん?…いや、まさかな。参加者の中に彼女は居なかったはず……)
一瞬、妹の親友を思い出し踏み留まる恭也だったが、すぐさま立ち去ろうと踵を返す。
これが、誰かの罠でない保証もないのだ。
だが、少女の次の言葉は、彼を引き留めるのには十分すぎた。
「お父様…?ううん、違う。おと…『おじさん』じゃない!お願い、助けて!」
それは「偶然」と言う名の運命 〜知佳〜
わたしにとって、それは大きな賭けだった。窓のないこの部屋では「光合成」もできない。
このままでは間違いなく、あのおじさんのなすがままにされてしまう。
そして、おじさんをずっと欺き続けられるほど、自分の演技にも自信がなかった。
だから…わたしは、今扉の向こうにいる「おじさんじゃない誰か」に賭けるしかなかった。
もしも悪い人だったら…そうも思ったけれど、どのみち殺されるなら同じ。
それなら、僅かな可能性にも縋った方がいい…はずだよね。
「なっ!……どういう事です?」
扉の向こうの誰かが、初めて声を出した。若い男の人の声。悪い印象は受けないけれど…
「とりあえず…入ってください。わたし、動けないので……」
ドクン、ドクン、ドクン………
胸の鼓動が高鳴る。お願い、悪い人じゃありませんように……!
ギィッ。
扉が完全に開いて、人が入ってきた。わたしよりすこし年上っぽい、男の人。
なんでだろう、とっても懐かしい感じ……。
理由は、すぐに分かった。
(あぁ、この人、耕介お兄ちゃんに似ているんだ。)
背格好も、顔も違うけれど、目の前にいる男の人は、
耕介お兄ちゃん…わたしの住む寮の管理人さん…と同じ、暖かくて、優しい感じがした。
男の人は、ベッドの隣にある椅子に腰掛けると
「一体、どうしたのです?何故こんな所に?」と、話しかけてきた。
その時、さっきは見過ごしてした男の人の服が、目に入る。
見覚えのある、学生服。それに、胸の校章……これって、………まさか………
嘘……そんな偶然って……
「…?どうかしましたか?」
男の人が、不思議そうにわたしの顔を覗きこむ。
わたしは、意を決して男の人に尋ねました。
「あの…その前に、その制服…もしかして、風芽丘の…海鳴の方ですか?」
男の人の顔色が、さっと変わった。まるで、思いがけない場所で忘れ物を見つけたような…
「そう…ですが、もしかして!?」
わたしは、おおきく頷く。
「はい、わたしも…です。」
「そうですか…まさか同じ世界の人が他にも居るとは…失礼、自己紹介がまだでしたね。
俺は風芽丘3年、高町恭也です。」
礼儀正しく、頭をさげる男の人…恭也さん。
「わたしは…聖祥女子2年、仁村知佳といいます。国守山のさざなみ寮に住…」
そこまで言うと、恭也さんが驚いたように聞き返してきました。
「仁村…さざなみ寮…ひょっとして、仁村真雪さんの妹さんですか?」
「知っているんですか!お姉ちゃんを!」
今度は、わたしが驚く番でした。
微かな疑問、そして…脱出
〜恭也〜
この娘が、真雪さんの妹…話には聞いていたが、こんな場所で出会うとは…
降って沸いたような、奇妙な出会いに、俺はただ、驚くしかなかった。
「そうですか。寮にも何度かみえた事があるんですね。気がつかなかったなぁ、わたし。」
しきりにそう言って頷く仁村さん。
だが…俺は、何か違和感を感じていた。
彼女の姉である真雪さんの話では、仁村さんは彼女の6つ年下、今は24歳のはず。
それにしては若い…というか、まだ少女のような外観。
しかも、先程確かに「聖祥女子2年」と……
それに、俺が初めてさざなみ寮を訪れた時、
仁村さんは国際救助隊に入隊してさざなみ寮を出ていた。
だが、今目の前にいる「仁村さん」は「今も寮に住んでいる」ような口ぶりで話している。
これは、一体どういう事だ?
……彼女の話からして、偽者という事はあり得ない。
そもそも、「知ってはいるが面識のない人」に化けて罠を仕掛けるような者はいないはずだ。
だとすれば、考えられる答えは…
この地に連れて来られる際、俺と彼女の間に、何年かの時間の隔たりがあったという事だ。
それを確かめるべく尋ねようとした俺だったが、
仁村さんは思い出したように真剣なまなざしになると、
「あ、ごめんなさい。他にも同じ土地の人がいると分かってつい嬉しくて…………でも、
こういう事を話している場合じゃないんです、早くこの場所を出ないと…」
そうだ。元々俺は、仁村さんに助けを求められた身。しかも、現状から言って
彼女が「助けを求める要因」が近くにあるのは間違いない。
となれば、ここに長く居るのは危険だ。
「…わかりました。お話はここを出た後で聞きましょう。……歩けますか?
見たところ大分消耗しているようですが……」
「あ、すみません…少し、無理かも。」
そう返す仁村さん。確かに、彼女の顔色は大分悪く、
今こうして上半身だけを起こしているのもつらそうだ。
「そうですか。……それでは、失礼。」
そう言って、俺は傍にあった彼女の支給品の入った鞄を背負うと、彼女を抱きかかえる。
「あ、あの……ちょっと、はずかしいかも……」
仁村さんが、遠慮がちに口をひらく。
「場合が場合ですから、勘弁してください。なんなら後でひっぱたいてもらっても構いませんから。」
「え!?あ、す、すみません……」
一言、そう言うと仁村さんは押し黙ってしまった。
「さ、それでは…いきますよ!」
仁村さんにそう声をかけ、俺は一気に灯台を駆け抜ける。
扉をくぐり、外に出る。長時間暗い所にいたせいか、太陽の光が一瞬、目を射た。
「とりあえず、どこか休める場所へ……」
そうつぶやいた瞬間……
「『お兄ちゃん』、あぶないっ!」
一瞬、誰の事か分からなかったが、自分の事を指していると気付き、とっさに身を翻す。
ブオォン!
さっきまで立っていた位置を、突風…いや、かまいたちのようなモノが通りぬけてゆく。
地面の雑草が、根元の部分を残して切り裂かれていた。
俺は、何事かと後ろを振り向く。
………そこには、「闇」が立っていた。
人の心の奥に住まう「狂気」という名のドス黒い「闇」。それを身に纏ったかのような男が。
壊れた心、届かぬ言葉
〜グレン〜
マナ!どうして、どうしてそいつをかばうんだい!?
マナが言わなければ、そいつの足は使い物にならなくなっていたのに…
マナが連れていかれる事もなかったのに……!
「マナ…どうしてだい?」
そう言うと、マナを抱えている男が不思議そうに、マナを見つめる。
マナは、男に何事か言っているみたいだけど…
「あの……じさんが…わたし…娘…かん…がい……じゃ…ないと……たら殺…れ…」
風のせいで、よく聞こえない。
やがて、男がこちらに向き直る。
「グレンさん…と言うそうですね。お気の毒ですが…この娘はマナちゃんじゃない、違うんです。」
……?この男は、何を言っているんだ?マナが、マナじゃないって?
「そんなはずはない!マナはマナだ!父親である私が間違うはずがない!」
……そうだろ?マナの事はなんだって知ってるんだ、そう、なんだって。
マナ……そうだよね?
「おじさん…ごめんなさい。騙すような事をしてしまって……でもわたし、本当にマナちゃんじゃないんです。きっと、本当のマナちゃんはどこかでおじさんの……」
え?マナ?何を言ってるんだい?悪い冗談はお父さん、好きじゃないぞ?
「…だから、このまま行かせて欲しいんです。お願い……!」
そう言って、男の方に向き直るマナ。
そうか…そうなんだね。その男が…ソイツガ、マナニムリヤリイワセテルンダネ……
「地の砂に眠りし火の力よ…目覚めて縁舐める赤き舌となれ!」
ボンッ!
私ノ詠唱ニ合ワセテ、男ノ足元カラ炎ガ噴キ出ス。
モエロ!モエツキテシマエ!ワタシカラマナヲウバウモノ、スベテ、スベテ、キエテナクナレェ!
「……くくく、はははははは、あ〜ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃヒャ……」
サア、マナ…ワルイヤツハコロシタカラトウダイヘカエロ……
「…危なかった。もう少し避けるのが遅かったら……」
?…ナゼダ、ナゼイキテイル?ナゼモエツキテイナイ?
「くっ…戦うしか、無いというのか…俺は……やれるのか?
…仁村さん、暫く待っていてください。何とか…してみます。」
オトコガ、マナヲジメンニオロシテ…カタバノケンヲヌク。
…ワタシヲ、コロソウトイウノカ?…オモシロイ。
ワタシハシナナイ。マナノタメニ、マナトノアタラシイセイカツノタメニ!
ジャマモノハ………スベテハイジョスル!
【グループ:高町恭也・仁村知佳】
【現在位置:灯台前】
【高町恭也】
【スタンス:力無き人を守る】
【所持武器:救急医療セット、小太刀】
【能力制限:悩み中(技のキレに若干の鈍り)
膝の古傷(長時間戦闘不可)】
【仁村知佳】
【スタンス:恭也について行く】
【所持武器:不明】
【能力制限:超能力(消耗中につき読心、光合成以外不可)
疲労・大(屋外に出た事で能力「光合成」発動、
時間とともに徐々に体力回復)】
【グレン】
【スタンス:マナ(知佳)に近づく者を皆殺し】
【所持武器:鍵束(うち一つは灯台の鍵。残りは不明)】