087 俺様最強伝説
087 俺様最強伝説
前の話へ<< 050話〜099話へ >>次の話へ
下へ
第三回放送までへ
(12:20)
グレンは元々学者肌で実戦経験はゼロに等しい。
初弾さえ躱せば、心得のある者なら悠々と懐に潜める。
恭也は奥義の歩法・神速を温存したまま摺り足でグレンに詰め寄り、
「徹!」
顎先をかすめる鞘の薙ぎ一閃で、あっけなく彼を倒した。
「…死んじゃったの?」
「いえ、気絶させただけです」
「良かった……」
胸に両手を当て息をつく知佳の態度は、本当にほっとしているように見える。
(優しい人なんだな…)
恭也はその態度に好感とを覚える。
「仁村さん、彼がいつ目を覚ますとも限りません。
体は大変だと思いますが、早々に立ち去りましょう」
「ごめんね…。体が動くようになるまで、お世話になるね」
知佳は薄幸そうな笑顔を浮かべ、遠慮がちに恭也の背に負ぶさる。
こうして2人は、北へと向かった。
(12:25)
ランスは上機嫌だった。
海岸で手に入れたアリスの配布物―――バスタード・ソードが、
彼の愛剣に似た長さと重さを備えていたからだ。
ひゅん、ひゅん。
左腕一本で何度か素振りをしながら、彼は手に剣を馴染ませる。
「ランス、ちょーぜつ凄いよ。そんなおもおもな剣を、
片手でぶんぶんなんて!!」
「ガハハハハ。凄いだろう。もっと褒めろ」
お調子者ギャラリーの黄色い声援に、さらにいい気になるランス。
そんな折だった。
「ん?」
振り下ろした剣先のはるか南に、北上する人影を見つけたのは。
「……よし、肩慣らしの仕上げをするか。アリス、南下だ」
「あいあ〜い!」
こうして2人は、南へと向かった。
(12:30)
恭也たちも南下してくる2人組に気付いていた。
しかし、恭也は知佳を降ろし、2人組の到着を待っていた。
「がはははは」
「あはははは」
風に乗って聞こえてくる場違いなほど明るい笑い声に、
敵意なしと判断したからだ。
恭也も知佳もこの殺人ゲームに乗る気はなく、
志を同じくする仲間を欲していたことも大きな要因だった。
やがて、相手の姿がはっきりと見えてくる。
中世の戦士風の鎧とマントに大剣を背負った男と、
燃えるような色の髪に肌を大胆に露出させた衣装の角の生えた少女。
時代錯誤・国籍不明な2人だ。
「む、試し切りに出向いてみれば、清楚で病弱そうな女の子……グッドだ」
最初に口を開いたのはランスだった。
かなり剣呑なセリフだが、あまりにもあっけらかんとした口調に
恭也たちは「試し切り」の真意に気付かない。
「こんにちは」
「こんにちは」
恭也と知佳が続けて挨拶をする。
「むう、声も可愛らしくてポイント高いぞ。名前は何ていうんだ?」
ランスは知佳ばかりに目をやり、恭也には一瞥もくれない。
「えと……仁村知佳です」
「俺は高ま」
「男はどうでもいい」
恭也は名乗らせてももらえなかった。
「女の子たちを助ける。主催者をすぱっと殺す。
それで、アイスに帰る」
知佳にどうするつもりかと尋ねられたランスは、即座にそう答えた。
「だったら、俺達と一緒に行動しませんか?」
「知佳ちゃんは望むところだが、おまえはいらん。
男なんぞ経験値以上の意味はない」
恭也の中で、違和感が少しずつ膨らんでゆく。
(俺がぞんざいに扱われることはどうでもいい。
でも、仁村さんに対する目付き……態度……なにか、嫌だ)
「え〜、いーじゃんか、お兄さんも一緒でも。
お友達はたくさん居たほうが楽しいかったり、楽しくなかったり」
「俺、多少は戦えます」
「むう……解った。俺様の部下になりたいと言うんなら、
盾代わりにしてやらんこともない。俺様は寛大だからな。
ただし、知佳ちゃんは俺様がもらうぞ」
ランスはそう言いながら強引に知佳の手を引く。
その時、知佳の心に響いた思念は、大檜の様に太くてシンプルだった。
【 犯る 】
「いゃっ……」
反射的にランスの手を払い除ける知佳。
それで、恭也の違和感が嫌悪感に変わった。
覚悟も決まった。
「仁村さんは、渡せません」
だが知佳の言葉は、恭也の覚悟に反するものだった。
「ランスさん。わたし……あなたのところに行く」
「仁村さん!!」
「だから、恭也さんとは戦わないで。恭也さんは関係ないの。
わたしが巻き込んでしまっただけだから」
「違う!!俺が仁村さんを助ける道を選んだんです。
守ると決めたんです。
仁村さんが責任を感じることなんてありません!!」
知佳は自分の身をランスに捧げることで恭也を守ろうと思い、
恭也は立ちふさがるランスを倒すことで知佳を守ろうと思っていた。
「いらいらいらいら……面倒臭い!!
男は殺す、知佳ちゃんは持ち帰るに決定だ!!」
その人として尊い―――
しかし、人によってはとてつもなく鬱陶しい譲り合いに、
ランスの短い堪忍袋の緒が、ぶちりと切れた。
素早く移動したランスが恭也と知佳の間に割って入り、
ザ!
背から放ったバスタード・ソードを一直線に振り下ろす。
恭也の頭目掛けて。
「つっ!」
剣風を感じた恭也は、転がるような、側転のような体捌きで斬撃を躱す。
「恭也さん!」
「アリス!知佳ちゃんが戦いに巻き込まれないように、抑えとけ!」
ランスはそう言いながら恭也に詰め寄り、擦り上げで二撃目を放つ。
さらに2歩下がってやり過ごす恭也。
「人を助け、主催者を倒すんじゃなかったのか!?」
恭也は怒りと無念さを込めて叫ぶ。
「バカ、人の話は良く聞け。
女の子を助けて、主催者を倒すと言ったのだ。
男は殺す。当然だろう」
恭也はまず、逃走を考える。
一人だけなら十分可能だ。
このまま背を向け、神速の1つで逃げ切れるだろう。
しかし―――
知佳を連れてとなると、話はがらりと変わってくる。
彼女を背負い、あるいは抱いて神速を使うとすると、
その速度は大幅に落ち、足の古傷にも大きな負担がかかる。
先ほどの斬撃に移るまでのランスの体捌き、移動速度からして、
逃げ切ることは不可能だろう。
(戦うしかない)
恭也は、小太刀を鞘から抜いた。
御神は戦場の剣ではない。
その本質は、隙、油断、夜陰。
音も無く忍び寄り、反撃する間を与えないことを至是とする暗殺剣だ。
白日の下、武装した相手と向かい合う為の技術ではない。
加えて、ランスの得物が140a超のバスタードソードであること、
全身をプレートメイルで覆っていることも、不利さに拍車をかける。
小太刀は50aと少々。有効範囲が違いすぎる。
重量にも負ける。
受けることも捌くことも不可能だ。
また鎧を渾身の力で突いたとしても、小太刀が砕けるに終わるだろう。
つまり、恭也にとってはこの状況を作られた時点で、
相当に不利な状況と言える。
ひゅっ!
しゅっ!
さっ!!
恭也は培った歩法と体捌きを駆使して、かろうじてランスの連撃を躱す。
ランスの剣には、速度があるわけではない。
また、技術があるわけでもない。
全く洗練されていないでたらめな剣だ。
しかし―――遊びが無い。
一振りが、一薙ぎが、明らかに命を狙ってくる。
荒削りで、プリミティヴな、野獣のような剣。
それが通常よりはるかに早いペースで、恭也を困憊させる。
それでもなお、恭也は攻撃に転じない。
彼は待っているのだ。
ランスが隙を見せるのを。
(―――首だ。
大きく振り下ろす斬撃が来たら、神速で躱し様に抜刀。
片薙旋の要領で動脈を切り裂く)
恭也はそのチャンスをうかがっていた。
明らかに対象の命を奪う攻撃だが、この恐るべき野獣剣士を止めるには、
一撃必殺の攻撃を見舞うしかない。
覚悟は、もう出来ている。
そして十五撃目。
「これで最後だ!!」
恭也の疲弊を嗅ぎ取ったランスが、恭也のイメージ通りの斬撃を放ってきた。
必殺の大上段を。
(ここだ!)
神速、第一歩。
……しかし、恭也の体はイメージ通りには動かなかった。
古傷の疼痛。
連戦による疲弊。
そして、自信の揺らぎ。
それらが絡み合った結果、神速に入り切れなかったのだ。
完璧な神速に比して4/5程の速度。
(……いけるか!?)
ランスの力量を考えると、微妙な賭けだ。
だが。
(次の隙まで、俺の足が保たないかもしれない)
その判断で、恭也は前方へ二歩目を踏み出した。
びょおっ!!
間一髪。
ランスの斬撃は、恭也のTシャツの左袖を切り裂くに止まった。
恭也はそのままランスの懐に飛び込み、呼吸を置かず抜刀。
小太刀の刃先は銀光を放ち、流れるようにランスの首へと向かい、
(な?)
足下から迫る何かを感じた恭也は、小太刀の進行角度を変え、
自らの胸の前へと降下させた。
ガキィ!
次の瞬間、衝撃音と共に火花が降下地点に散る。
そして―――静止。
そこには、恭也の顔面を目掛けて放たれた、ランスの膝があった。
鋼鉄製の膝あては、それだけで十分凶器足り得る。
武器は、剣だけではなかったのだ。
「ガハハハ、お前、なかなか速いな!」
ランスは全く焦った様子を見せず、不適に笑う。
その曇りない哄笑を耳に、恭也は確信した。
(この男は、命のやり取りを楽しんでいる)
じわりと額に浮かぶ汗。
しばしの力比べののち、止めと攻めの力点となっているその膝を軸に、
ランスのつま先が伸びてきた。
獲物の喉元を狙う肉食獣の牙の様に、恭也の水月へ向けて、一直線に。
しっ!
恭也は咄嗟の体捌きで身をひねり、急所への直撃を回避。
蹴り上げられた勢いを利用して、大きく後方に飛び退き、転がる。
恭也にダメージを与えられなかった事を悟ったランスも一歩引き、体勢を整える。
刹那。
ささささぱぁっっ!!
2人が鍔迫り合いをしていたその場所を、
良く研いだ刀よりなお鋭い圧縮された空気が切り裂いて行った。
「マナ!!お父さんが!!今!!
お前のお父さんが助けに来たよぉぉぉぉ!!」
乱れた呼吸、青い顔、滝のように流れる汗。
濁った目に狂気と狂愛を宿らせた、ドブネズミの如き賢者が迫っていた。
「行け行けGoGoラ・ン・ス!」
無邪気に声援を送るアリスの背に触れ、知佳は注意深く彼女の心を読んでいた。
【ちょ〜ぜつカッコイイじゃんかランスてばも〜おちんちんも大きい】
【し強いしサイコーこのコもランスのでずんずんされたらもー虜にな】
今の知佳には攻撃手段も、防御手段も、逃走手段も無い。
庇護者の情けに縋らないと生きてゆけない。
(寄生虫みたい…)
幼い顔立ちに余りにも似合わない自嘲の表情が浮かぶ。
(……でも。寄生虫には寄生虫の、戦い方がある)
それは、読心。
(見つけるんだ……この子の隙を)
暫く彼女の心を読んでいた知佳は、利用できそうな思考を掘り当てた。
【この子とあの兄ちゃんは恋人どうしかなや〜ん愛の逃避行とかだっ】
【たら女のロマンじゃんかいいないいなだったら応援しちゃったりし】
「あの……」
「ん?なになに?」
「わたしと恭也さん、恋人なの……」
「マジで!?」
(……乗ってきた)
【駆け落ち華族の娘さんと庭師の兄ちゃんとかだったらロマンチック】
【じゃんそれとか案外重病で余命いくばくと無かったりするのもドラ】
「実はわたし、重度の腎臓病で……毎日透析しないと、死んでしまうの。
でも、この島にはそんな医療設備は無いし……」
「マジで!?」
……あとは簡単だった。
アリスの心に浮かぶ純愛ストーリとやらに沿ったエピソードを
それっぽくぼかして、語るだけだ。
「ちょ〜〜ぜつかんどお〜〜〜。涙じょびじょば〜〜〜」
「だから……お願いですアリスさん。私たちを逃がして下さい」
「全然OK」
恭也とランスの戦いにグレンが乱入したのは、ちょうどその時だった。
ランスは迷うことなくグレンに向かってゆく。
恭也は知佳の安否を気遣い振り返り―――
「!」
手招きする知佳と、大泣きするアリスに気が付いた。
「火の赤子よ!風の童女よ!」
グレンはマッチをこすると、ふ、と炎に向けて息を吐く。
すると、その炎は見る見るこぶし大の火の玉となり、
ランスに向けて勢い良く飛んでゆく。
これまで、グレンの相手は魔法の無い世界の者達ばかりだった。
それゆえ意表をつき、機先を制することができた。
だが―――ランスの世界では魔術は日常だ。
恐れることも無ければ、驚嘆することも無い。
「なんだ、へっぽこ魔術師ではないか。
この程度の炎、マジ・スコに毛が生えたようなものだ」
ランスは真紅のマントを放り投げる。
それはばふりと音を立てて火の玉を包み込み、地面に落ちた。
ランスはその間もグレンに詰め寄り、投げ捨てたマントを一顧だにしない。
「な―――」
慌てて次のマッチを取り出すグレン。
「火の赤」
「ガハハハ、遅いわ!!」
ランスは3メートル弱の距離まで詰め寄っていた。
そして。
「ランスアタ〜〜〜〜〜ック!!」
豹のようなバネを生かしたハイジャンプから、
渾身の力と体重を込めての上段斬りを見舞った。
斬!!
ランスが着地すると同時に、グレンの右1/3がどさりと地面に崩れた。
その指先に火の付いたマッチを握ったまま。
「むう、思った以上になまくらだな。
ランスアタックの2、3発しか保ちそうにないぞ」
彼は不機嫌そうにそう言うと、噴水の様に血液を噴き出すグレンに蹴りを入れた。
しかし、グレンは倒れなかった。
左半身に頭を乗せたグレンが、中身をボトボトとこぼしながら、
怒りの形相すさまじく、ランスに倒れ掛かかって来のだ
。
「……كلِ المقاهي ضضلِ ، لهياMana هنكهةٌ واحدئق」
それどころか、ひゅうひゅうと空気が漏れる声にならない声で、
ぶつぶつと呪詛の言葉を
その執念。
「しつこい」
ランスは面倒臭そうな声でそう言うと、瀕死のグレンに剣を突き刺す。
口から喉を貫き、後頭部から生えるバスタードソード。
ごぷり。
その口から迸った飛沫が、ランスの下半身を赤黒く染めた。
「mAnaل」
―――愛する娘の名を呟き、グレンは今度こそ沈黙した。
「…さて、次はお前だ」
ランスはそう言って恭也の方を見るが、そこには誰もいない。
「知佳ちゃん!?」
慌ててアリスと知佳の待機する場所を見やるが、
「びええええん、ふええええええん」
何故か涙を流すアリスが一人でいるだけだった。
「おいアリス、知佳ちゃんはどうした?男は!?」
「逃げた」
「なんで俺様を呼ばなかった?脅されたのか?」
「ん〜にゃ」
「…黙って逃がしたのか?」
「うん」
「なーーーーーんて事してくれるんだ。
知佳ちゃんは俺様への勝利のご褒美なのに!!」
「だってさだってさ、赤いシリーズだよ?花王・愛の劇場だよ?
兄妹なのにらぶらぶで、誰にも祝福されない大禁断の愛なんだよ?
逃がしてあげるのが人情じゃんか」
「俺様に都合の悪い人情などいらん。追うぞ。どっちへ逃げた!?」
「ゆえないよ……ゆえるわけないじゃんか!!
ぐしっ……ひくっ……
だって、病が体を蝕んで、明日には死んじゃうかもしれないコなんだよ?
最後の時は、愛する人の傍で迎えさせたいと思ったり思わなかったり」
「むむむ……」
「ランスにはわたしもユリーシャおねえさんもいるんだからさ、
一人くらいいいじゃんかぁ。ね、ね?
わたしがすんごいサービスしちゃうからさぁ?」
「すんごい…サービス?よしわかったアリス!!
あいつら、今回だけは見逃してやるからケツを出せ!!」
「いますぐ?」
「今すぐ!」
「ここで?」
「ここで!」
「やぁぁあん、もーランスてばちょ〜ぜつえっちぃ」
嫌がっていたりいなかったりするアリスを四つんばいにさせ、
ランスは質感のある尻から黒のひもぱんをすぽーんとめくった。
(13:00)
「れろれろれろ……んぐ……ちゅぱちゅぱちゅぱ」
ランスはアリスにその小さな口で奉仕させていた。
しかし、彼の顔には喜悦の表情が浮かんでいない。
高笑いもしていない。
バックに東ドイツ国家も流れていない。
「ん〜〜やっぱダメだね」
「ああ……」
「わたしがにょ〜どおにベロの先っちょ突っ込んでれろれろしても、
ふにゃふにゃのまんまだよ」
「ああ……」
ランスがアリスの尻を剥いてから約20分。
未だ、ランスご自慢のハイパー兵器は、ハイパーになっていなかった。
「だ〜〜〜〜〜っ!!むかつくむかつくむかつく〜〜〜〜〜っ!!」
ランスはだだっ子の様に地面に転がり、手足をじたばたさせた。
「なんでだなんでだなんでだ!!
こんなにいい尻なのに、こんなにいい乳なのに、ぬれぬれなのにっ!!」
「……そーいえばさ、汚いおじさんが死ぬときに、変なこと言ってたね」
「おまえ、あの訳のわからん言葉を聞き取ったのか?
それで俺様が勃たんのと、関係あるのか?」
「ま〜ね。闇夜を総べる大魔王だし。ルーン語くらいとぉおぜん!
おち○ちんのことは、関係あるかもしれないし、無いかもしれないけど」
「で、なんていってたんだ?」
「『お前のようなケダモノにマナは汚させん、呪われよ』ってさ」
【9 グレン:死亡】
―――――――――残り
26
人
【グループ:ランス・アリス】
【現在位置:東の海岸】
【ランス】
【アイテム:バスタード・ソード・棍棒もどきの枝】
【能力制限:ランスアタック 使用限度3回】
【能力制限:グレンの呪いで勃起障害】
【グループ:恭也・知佳】
【現在位置:東の海岸 → 東の森】