093 戦って、傷ついて、失って、その果てに…

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遺作1

(12:30)

 西の森の南、ごく浅いところ。
 血と泥にまみれたメイド服の少女を発見した遺作は、しおりを少し離れた木に繋ぐと、
 用心深く日本刀を構えながら、声をかけた。

「おい、生きてんのか?」

 もちろん助けようなどと思ったからではない。
 安全に犯せるか、その確認の為だ。

 少女の右腕には乾いた血をからませたチェーンソーが直接繋がっている。
 接続部には溶接痕が見て取れた。
「コイツ、人間じゃねえ。ロボットだ」
 そう言いながら遺作は足元に転がる小石を、ナミに向けて投じる。
 彼はカンと適度な響きを持った音が帰って来るものとばかり思っていたが、
 意外にもぽふりと、柔らかそうな音が帰ってきた。
「結構精巧に作られてるみたいだぜ……
 これでおま○こがついてりゃ、それはそれでそそるモンがあるな、おい」

 今までの反応からナミが壊れていると判断した遺作は彼女に詰め寄る。
 メイド服の前を引き裂き、ブラジャーをたくし上げる。
「おお!これまたいい乳じゃねえか!」
 嬉しそうな声をあげると、彼は形の良い胸にしゃぶりつく。
 ちゃぴ、ちゃぴ……
 指でこねくり回し、唇で挟み、舌で突付き、歯を立てる。
「で、肝心のこっちはどうかね?」
 遺作の汚い左手がナミのスカートの下から下腹部へと潜り込む。
 毛虫のような指をショーツの隙間へと這わせる。
「……お、ちゃんとあるじゃねえか。よさそうなお道具がよ!」
 彼は下品にへひひと笑うと、ナミの顎から額にかけて、ね゙ろんと一気に舐め上げた。

「……え?」
 ナミがデフラグを終え、目を覚ましたのはその時だった。





ナミ1

「やめてください!」
 ナミがそう口にする前に、遺作は飛びすさっていた。
 彼はナミが壊れていると思っていたから手を出していたに過ぎない。

 本来の彼女は、皮膚感覚感知機関が毎秒120回感覚で全身にかかる圧力をチェックしており、
 遺作のような狼藉者が指を触れた瞬間気付くように出来ている。
 だが、今の彼女は被曝により、皮膚感覚を始めとする殆どの機関が動作不能になっている。
 この点、チェーンソーで一刀両断されなかった遺作は非常に幸運といえた。
 しかしこの遺作の幸運―――言い換えればナミの不運は、これだけに止まらなかった。

「ご主人様のためのこの体を……許しません!」
 ナミはチェーンソーを振り上げ、遺作に飛び掛ろうとしたが、

   !:右腕に過負荷がかかっています 
      タスクを強制終了します

「え!?」
 チェーンソーの重量、回転の振動。
 補助機構なしの右腕ではそれを持ち上げられなくなっていた。
 飛び掛るというタスクは辛うじて実行できたのが、またいけなかった。
 よろめきながら遺作の元まで進み、そこで彼の胸に身を預けるように倒れこんでしまう。
「……なんだ、ぽんこつか。脅かすんじゃねえよ」
「あれ、あれ???」
 やはり、チェーンソーは持ち上がらない。
 ならばと、ナミは左手をチェーンソーに添える。
 
 ヴィィイイイイ!!

「うげっ!」
 今度は何とかチェーンソーで斬りつけることに成功。
 遺作の胸に、浅い亀裂が走る。
 反動で崩れかけた体勢を建て直し、次の攻撃へと移ろうとするナミだが……
「そうはさせねぇよ」
 状況判断力に優れる遺作の手によって、左腕を押さえつけられてしまった。
 がくり。
 右腕はまた、垂れ落ちた。
「そんな……」
「けへっ。ちっと怪我もしちまったが、完璧に壊れちまってるよりゃ楽しめるよなぁ。
 泣き叫ぶ声と苦悶の表情の分、お得ってモンだぜ」
「や、やめ……」
 がばり。
 遺作はナミを押し倒した。





遺作とナミ

「やめてっ!くださいっ!」
 じたばた、じたばたとナミは遺作の腕の下でもがく。
 しかし―――今のナミは、遙や藍と変わらない非力な少女。
 本気になった大人の男を跳ね除けることなど出来ない。
 分析の結果、そのことを悟った彼女は、一切の抵抗をやめる。
「なんでぇ、もう死に体かよ……根性ねぇ機械だなぁ、おい」
 つまらなそうにかっ、とタンを吐く遺作。
 吐いた汚物はナミの顔にかかるが、彼女はそれにも反応しない。

(何か、方法は……)
 ナミは、全タスクを中枢コンの演算に集中していた。
 力、攻撃……それ以外の方法を求めて。

 遺作は、再び胸に集中していた。
 どうも、かなり気に入ったらしい。
「いいぜぇ……いいよぉ……お前のちちは最高のちちだぜ。
 プリンプリン張ってよぉ、仰向けにしても形が崩れねぇ」
 彼は左手で右の胸を揉みしだきつつ、左の乳首を甘噛みしていたが、
 次第に興奮が高まったらしく、乱暴に噛みつきひっぱり始める。
 そのとき、無表情だったナミの瞳に光が射した。

  command:シリコンパーツ左胸部、剥離。

「んをっ!?」
 遺作は驚愕した。
 咥えていたナミの左の乳房が彼女の胸部を離れ、まるごと持ち上げられていた。

 しかし、遺作の腹の下で始まった異変は、それだけに止まらなかった。
  command:シリコンパーツ右胸部、剥離。
  command:シリコンパーツ顔面部、剥離。
  command:インサートパーツ、排出。
  command:アナルパーツ、排出。

「な、な……」
 数々の修羅場を越えてきた遺作にとっても、余りにも異様な光景だった。
 ぺりぺりと皮膚が剥がれ、いかにも機械らしいメタリック・グレーの装甲部が露わになる。
 ずるりと性器が抜け落ち、只の空洞と化す。

 ナミが取った自衛方法。
 それは自身の女性たる部分を削ぎ落とすことで、レイプ行為そのものを無効とさせること。

「ご主人様以外の男性にご奉仕する部分なんて、ナミには1パーツもありません!」
「萎えるぜ、畜生っ!!」
 遺作は、ほんの10秒前までは美味しそうにしゃぶっていたナミの胸パーツを蹴り飛ばすと、
 怒りに任せて拾った石で殴りかかる。
 がいぃぃぃん!
 しかし、人工皮膚の下にある装甲は、人の力で叩き付けた石などではビクともしない。
 却って石から伝わる振動に、遺作は手を痺れさせてしまう。

「くそっ!弱っちいクセに硬ぇと来てやがる」
 ナミの破壊を諦めた遺作は憎々しげにべっと唾を吐き捨てると、そのまま立ち去った。





ナミ2

遺作が立ち去ってのち―――

 ナミはよろよろと立ち上がると、剥離させたシリコン顔面部を手に取る。
 若干の角張りを見せつつも、愛らしく垂れている目。
 ふっくら気味の頬におちょぼ口。
 でしゃばりすぎず、しかし、愛くるしく。
 男の庇護欲求と支配欲求を掻き立てる。
 それが、ナミ型メイドロボの外見的コンセプトだ。
 それは、ナミがナミとして認識されるための記号のようなものだ。
 しかし―――

「5パーツを捨てただけで、6kg以上の軽量化が出来ました。
 身体能力が著しく低下した今、他の不要パーツも排除したほうがよさそうです」

 ナミは、躊躇うことなく、そう決断した。

 するりと衣装を脱ぐ。
 ばさりと髪を落とす。
 ぺりぺりと皮膚を剥がす。

数分後―――

「11kgの軽減―――生存確率、0.009843%に上昇。
 まだです。
 まだまだです。
 ナミは、まだ諦めません、ご主人様」

 思いをブラックボックスに託すナミは、人の輪郭を持っていた。
 だが、既に人の姿はしていなかった。





遺作2

「あぎいいいいいいいっっ!!!」
「おめぇはまだルールが見えてねえようだな、おお?」

 遺作は、またしおり(さおり)の指を折った。
 叫ぶしおり(さおり)を蹴り飛ばして黙らせた。
 彼女が遺作の居ぬ間に、不自由な手でロープを解こうとしていたから。
 その罰であり躾けだったが、その意味以上の怒気と暴力性を孕んでいた。

 それはナミを犯せなかったことでの八つ当たりだった。
 また、斬り付けられたことでの八つ当たりでもあった。
 浅い怪我ではあったが、服は裂けてしまった。
 なぜかまだ血が止まらない。

「……」
 何かむず痒さを覚え、ガリガリと頭を掻く遺作。
 ごそり。
「ん?」
 その指先には、大量の髪が、束になって絡みついていた。
「っかしいぜ。ウチは禿げる家系じゃねぇんだけどなぁ……」
 それがまた面白くなかったので、彼はどうやってしおりに八つ当たりしようかと思いを巡らせた。



          【グループ:伊頭遺作・しおり】
          【現在位置:西の森 → 湯治場】
          【遺作】
          【能力制限:被曝(4シーベルト程度)、失血止まらず】
          【しおり】
          【能力制限:二重人格、右手親指と人差し指骨折、右足裂傷につき歩行に難】

          【ナミ】
          【現在位置:西の森 → 廃村】
          【能力制限:身体能力、やや上昇】




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