092 オコジョのハルは、みんなに助けてもらってばかり。今日も病院でおるすばん。「さみしいなあ、さみしいよお」だからハルは、一緒に頑張ろうと思いました。みんなと、本当のお友達になるために。

092 オコジョのハルは、みんなに助けてもらってばかり。
今日も病院でおるすばん。
「さみしいなあ、さみしいよお」
だからハルは、一緒に頑張ろうと思いました。
みんなと、本当のお友達になるために。


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(13:10)

しゃーー……

シャワーがわたしの体を洗い流していく。
くんくんくん……
匂いを嗅ぐと、石鹸とシャンプーの匂い。
血の臭いはしない。
 「血の……」
そう思ったとたん、髪の毛から嫌なにおいがしてきた。
生臭くて、ねっとりと鼻腔にからみつく、血の臭いが。
 「やだ……まだ落ちてない」
しゅこ、しゅこ。
吐きそうになる口元を押さえながら、またシャンプーを手に取る。

髪を洗うのは7回目。
体も5回洗ってるから、二の腕やおなかがひりひりする。
でも臭いは、まだ落ちない。

―――本当はわかってる。
臭いなんて、とっくに落ちてしまってることを。
目覚めたときの部屋の状況が頭から離れなくて、臭いがするような気がしてるだけ。
でも……我慢できないの。

 「駄目だ……駄目だよ、こんなことじゃ」
わたしって、涙腺の涸れない女の子だ。また泣いてる。
 「守られるのは嫌なのに。みんなの役に立ちたいのに」
魔窟洞のおじさんと、アインさんを探しに行かないといけないのに。
神楽ちゃんといっしょにお墓を作らないといけないのに。
藍ちゃんと一緒にお料理しなくちゃいけないのに。
わたしは血が怖くて、死ぬことが怖くて、お風呂に逃げてる。

なんて、弱いんだろう。


しゃーー……
ごしごしごし……

シャンプーを洗い流して、くんくん、また匂いを嗅ぐ。
  「あれ?」
嫌な臭いがした。
垢と、汗と、お薬と、泥と……汚いものをいっぱい混ぜた臭い。
お風呂から、一番かけ離れた臭い。
  「くさい……」
  「し、し、失礼な女がやきね!!
   先生はとっても傷ついたが!!」
  「え!?」
入り口を振り返ると、体中を包帯でぐるぐる巻いたミイラ男のようなひとがいた。
目が……目が、変な場所にある。
おでこよりも上に。

  「きゃあああっ!!」

おおおおお、お、落ち着いて、落ち着くの、遙。
  「ふ、ふんじんばくはつのやりかた。
   @こ、小麦粉を」
えと、じゃなくて、
  「アインさん!」
は、居なくて、
  「エーリヒさん!!」
は、あの、死んじゃってて……
死―――
わたしも!?

  「へ、へひひひひ……い、いとさんが涼宮遙がか?」
  「い、いや!お願い、殺さないで、来ないで、助けて!!」
  「へ、へけけけけ……
   先生はいとさんの味方ぜよ。安心しとおせ」
  「い、いや!お願い、殺さないで、来ないで、助けて!!」
  「あー、まー、とにかく落ち着くが」

ミイラ男は私の口を押さえた。
じわっと鼻と口に広がる、くらくらする何か。
へなへなへな……
その何かのせいなのか、恐怖のせいなのかわからないけれど。
わたしの腰は、そこで抜けた。
……もう、逃げられない。

犯されちゃうのかな?
殺されちゃうのかな?

そんなのイヤ!!
そんな怖いこと……

……怖いこと……

……だったはず

……の、
よう

な……………………




―――もう、いいや。
なんだか、考えるのが面倒になってきた。
シャワーは温かいし。
気分は悪くないし。
ふわふわしてるし。

 「あー、涼宮遙。先生の声、聞こえちゅうか?」
 「えー、あー…… はい……」
 「とりあえずシャワー止めて、体拭いて、服を着るが?」
 「あのー…… えと…… あなた……だれ?」
 「先生はいとさんの主治医がよ」
 「あー、そうですかーー………」

そう……なんだ。
主治医さんだったんだ……
だったら、何にも心配しなくて……いいんだよね。

 「ちくと先生からも質問。あしは誰?」
 「わたしのーーー、……しゅじい、さん?」
 「よし。『マキシマム精神安定剤』は効いちゅうな」
 「まきしま、む……せーしん、あ……あん?…あんて……」
 「あー、今のはオフレコやき、きれいさっぱり忘れとおせ」

主治医さんが忘れたほうがいいっていうなら、きっと忘れたほうがいいことなんだ。

 「わすれる………」
 「よしよし、ええ子やか。
  実は先生、いとさんの願いを叶えてあげるために来たがやきす」
 「ねがい……かなえ……」
 「いとさんはぎっちりゆうちょったがよね?
  足を引っ張りたくない、役に立ちたい、能力が欲しいと」
 「あーーーーー、そうですかーー?」

 「よー思い出しとおせ。
  アインがゆうちょったが?『力ある者は取り込み、ない者は―――捨て置く』」

アインさん……
わたしは力ない者だから……捨て置かれるの?

 「エーリヒがゆうちょったが?『ハルカは、戦力にならない』」

エーリヒさん……
わたしはお荷物ですか?

 「紫堂がゆうちょったが?『遙さんと藍ちゃんは、私がお守りしますから』」

神楽ちゃん……
わたし……守られるの……いやなの……

 「な?悔しかったがよ?情けなかったがよ?力が欲しい、そう思ったがよ?」


 「せん、せー……わた、し、いやです……
  どう、したら……い、いんで、すか?」
 「簡単なことやき。いとさんが強くなれば、ほき万事解決やか」
 「でも……わたし、なんのとりえ、も、ない……ふつうのおんなのこ……」
 「そんなことはわかっちゅう。ほうやき、先生が来たがよ。
  素敵ブレンドお薬をプレゼントするために。
  ほれ、これ見とおせ!!
  これをたっぷりぶっ込めば、あっという間ににいとさんはパワーアップやか」
 「ホント……です、か?」
 「ホントホント。
  最大筋力常時使用可!感覚も自分比150%!おまけに痛覚麻痺の急所無効!!
  疲れ知らずで馬車馬の様に戦えるがよ?」
 「せんせー、あ、り、がとうご……ざいま、す……」
 「ほうやき―――誰か倒すがやきす」
 「たお、す……? だれ、を?」
 「いとさんのとぎ(仲間)で、誰が一番強いと思うがか?」
 「アイ、ン……さん……かな……」
 「ん〜〜〜〜、じゃったらアインはどうなが?
  もし殺せば、みんないとさんの強さを認めるにかぁーらん?」
 「……えーーー? ころ……す、ですか?
  ころしたら……しんじゃいません、か……」
 「なんちゃーがやない。殺しても死んだりしやーせんよ。
  お医者さんが言うのやき間違いないきね。
  アインば殺したら、あいと女もにっこり微笑んで、いとさんを見直すに違いないき」
 「そうーー、なんですか……よかったぁーー」
 「ほいたら、忘れんうちに復唱しとおせ。
  ほれ、『アインを』」
 「アイン……さん、を」
 「殺すと」
 「ころ……す……とー」
 「私は」
 「わ、たし、はーーー……」
 「認められる」
 「みとめ……られる……」
 「じゃ、今のを続けて」
 「アインさん、を…… ころすと…… わたし、はーー…… みと、められーー、る……」
 「もういっさん、一気に!」
 「アインさんをころすとわたしはみとめられる」
 「へひひひ。……ほいたらお注射の時間やき」





(13:30)

 「まだ頭はぼーっとしちゅうがか?」
 「あの、だいぶはっきりしてきました」
 「体の調子はどうなが?」
 「え、えとあの、体中が熱いのに、頭だけ凄く冷えてて……不思議な感じです」
 「へひひひひ……よかよか。それが正しい状態やき」

 「神楽……神楽、どこだ……」

入り口の方から、くぐもって不明瞭な声が聞こえてきました。
なんだかちょっと苦しそう。

 「あ、アインさんみたいです」
 「またいいタイミングで戻ってきちゅうな」
 「あの、先生。わたし、いってきますね」
 「ほいたら、頑張るいとさんのために、先生からプレゼントやか」

とても切れ味の鋭そうなメスが3本。
それと、一本の注射。

 「筋弛緩液やか。油断させて近づいて、これをぷっすし射すがやきす?
  それが出来ればいとさんが必ず勝つが」
 「わたしなんかのために、こんなものまで……頑張ります、先生」

先生の思いやりを胸に、頂いた道具を手に、更衣室を後にします。
アインさん、殺したらどんな顔するかな?
 『私を殺すとは、遙、あなたもなかなかやるわね』
とか、言ってくれるかな?
 『これからは遙とコンビを組みましょう』
って言われたらどうしよう。
……ちょっとどきどきしてきたかな?

 「神楽……どこ……?」

あ、薬剤室の前に、アインさん発見。
お注射を隠して……

 「アインさん、お帰りなさい」



            【遙】
            【アイテム:メス×3、筋弛緩剤入り注射器】
            【能力制限:筋力を限界まで使用可能、感覚鋭敏、痛覚麻痺、急所無効】
                   薬が切れると酷使した神経・筋肉に揺り返しあり】




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086 錯綜する想い
涼宮遙
097 戦うこと、殺すこと、生き延びること。その全てを適切にこなす方法を、私は知っている。でも、人を守る方法なんて、マスターは教えてくれなかった。
アイン
091 へ、へひひひひ…… へけけけけ……
素敵医師
101 Rumbling Hearts Breakdown