101 Rumbling Hearts Breakdown
101 Rumbling Hearts Breakdown
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遙
(13:39 同病院二階・階段前)
「……アインさ〜ん……どこですか〜?」
と言っても、アインさんの事だから返事してくれないんだろうな。
……まあ、血痕がはっきり残ってるから場所は分かりますけど。
ひょこっ、ひょこっ……。
少しもつれた足取りで私は進みます。
この方向にあるのは病室―――さっき、星川さんが死んじゃった所です。
それと藍ちゃんがいた病室、あとは薬品庫が……あったと思います。
うぅ……こんな事ならちゃんと病院の中、覚えておけば良かったなぁ……。
血の跡は点々と続いています。
先生のお話では、もうアインさんはいっぱい血が出てしまったから、少し
の出血でも致命傷になるって言ってました。
……でも、それじゃちょっとつまんないなぁ。
私、まだアインさんにちっとも強くなった所見せてないんですから。
アインさんにもっと強くなった所を見せて……
アインさんを直接この手でころして……
認めてもらうんだ。私が役立たずじゃないって。
「ん?」
―――血痕が途切れました。
ここは―――星川さんが死んだ病室です。
ドアは閉まっています。
コンコン♪
とりあえずノックしてみました。
「アインさ〜〜ん、居ますよね?」
……………。
返事はありません。
ノブに手をかけてみますが……やっぱり鍵が掛かってますね。
「フゥ……しょうがないなぁ……」
いつもの私なら無理だけど……今なら……。
大きく息を吸って、少し後ろに下がります。
「せぇ……のっ!」
ドガッ!
私は、全力でドアにぶつかりました。
木造のドアが大きく揺れます。
「よいっ……しょっ!」
更に二度、三度……。
ドガッ!……ドガッ!!
あ、ドアにひびが入ってきました。
……ビキィッ!!
……………?
何だろ?
私の肩が変な音を立てました。
まあ、痛くないから気にしません。
先生も「痛みは気からっちゅうてね、痛くないと思ったら痛くないもんやき」
って言ってましたし。
それに……もうちょっとで……
ベキャアッ!
その時、やっとドアが壊れました。そのまま転がるように中に突っ込みます。
「………え?」
―――そこには、誰もいませんでした。
部屋の中にはつい一時間程前のエーリヒさんと星川さんの血の跡がべっとりと
残っていて、今も鉄臭い匂いが充満しています。
「………あ」
窓が―――開いてました。
血痕はそこまで一直線に進んで、窓枠にべっとりと掌状に残っています。
フフッ、無茶な事をアインさんもやるもんですね。
あんな体で飛び降りても遠くに行けないに決まってるのに……。
でも、私もうかうかしてられません。
先生からもらったあの麻酔の薬は、効きが早い分回復も早いんだそうです。
私は窓枠から下を見下ろしました。
窓の一部が破られ、そこにアインさんの着ていたボディスーツが結ばれています。
見てみると、ボディスーツの端には更に下着が結ばれていました。
なるほど、これだけ高度を下げれば今のアインさんでも着地できますね。
私も同じ方法で降りたい所ですけど、右手がポッキリ折れてるから……
どうしようかな……?
うん、それじゃ……
「………んしょ、んしょっ」
窓に足を掛けて……。
「えいっ!」
そのまま一気に飛び降ります。
「(ピキッ)……あわわっ?」
ちょっと着地で転んじゃいました。
また足から変な音がしましたけど、気にしません。
服の埃をぱんぱんと叩いて、周りを見回します。
もう、アインさん、どこにいるのかなぁ……?
素敵医師
(13:42 同病院二階・同病室)
(物陰から素敵医師、ふらふらと現れる)
けへ、けへへへへへ……
遙、がががんばっとるみたいでセンセ嬉しいがよ。
まーったく、あのアインっちゅうのは無茶苦茶強いき、センセでは叶わん
けねェ……案の定、遙嬢ちゃんの前では骨抜きが。
世界一の殺し屋も逃げるばかりっちゅう感じですこぶる良好じゃき。
リチャード・キンブルばりの逃亡者っちゅう奴がか?
……きひっ、にしても、アインの嬢ちゃんも豪快がね。
今は全裸で逃げ回っとるんじゃき……。
(窓から下の景色を眺める)
おーおー、遙の奴張り切っちゅうてあんなとこまで……。
……ん?
………んんんんんん?
………ななな……なーんか変がよ?
………アインの嬢ちゃんは、ここから飛び降りた筈がね?
………なな、何で地面に血痕が……
「それはここにいるからよ」
あ?
(どがっ!)はぎゃあっ!?
センセ、いきなり棒か何かでふっとばされたがよ!
「そう遠い所から観戦してはいない、と踏んでたわ」
殴られた方に、片腕をシーツに包んだ素っ裸の娘っこが一人立って……
……アアア、アインの嬢ちゃん!?
「あ、あーあーあー……」
なーるほど、最初から脱出はブラフやったっちゅう訳がね。
シーツで止血して血痕隠して、センセを誘き寄せるために……
……って、ヤバイがよっ!冷静になっちゅう場合じゃないき!
「……ままま、待つがよ!」
「待たないわ」
(ぐしゃっ!)はぎょっ!?
センセ、殴られた勢いで壁に叩き付けられたが!
こここ……これは危険な状態じゃき……嬢ちゃん、完全にキレとるぜよ!
「……遙の中和剤、持ってるわね?」
「ちゅっ?ちゅーちゅーちゅー……あーあー……も、持っとるがよ!」
そう言いつつセンセ、懐から一本注射を出し……。
(ガッ!)へきゃっ!?
なんで叩き落とすがか!?
「……本物を出しなさい」
……………。
流石……世界一の暗殺者っちゅう所がね、いい勘してるぜよ。
今のは素敵医師オリジナルブレンド筋力増強剤【Ver.2,02】じゃったき……。
ここは素直に、一応従った方が賢明がよ。
「わわわ悪かったがよ!ちょっとしたウィミィジョークやき(ごそごそ)。
……ここここれが本物の中和剤が。これ一本で今の遙嬢ちゃんの諸症状は
全部リセットされるき……」
「……そう」
「あーあーあー、こここ、これで一件落着やき」
「……いえ、まだよ」
そう言ってアインの嬢ちゃん、「すぱす」をセンセに向けたが!
「すすっ、すまんかったがよォッ!」
センセ、ここぞとばかりに土下座したがよ!
……頭下げるだけなら只じゃき。
「センセ、ザドゥの大旦那に脅されちょっただけじゃき!これからは改心して
一日一善品行方正清廉潔白に生きていくが!ななな、なんじゃったら名前を
無敵医師とか善良医師とかに改名してもいいがよ!どーかっ!どーか先生を
許してたもーせッ!」
「……………」
「ど〜〜〜〜かっ!」
……な〜んて、ちゃーんとセンセ知っちゅうがよ?
嬢ちゃんが、無抵抗の相手は殺せない性分がっちゅう事は……
今ごろ嬢ちゃん、迷ってる所がね……。
「……頭を上げて。もう……いいわ」
そ〜ら来た♪
「かかか、感謝感激ぜよっ!これからは……」
センセ、そこまで言って―――
「さよなら」
デっかい音が鳴って―――
「……へきゃっ?」
―――撃たれたがよ。
腹に至近距離で「すぱす」撃ち……込まれて……。
センセ……そのまま仰向けに倒れて、ピクリとも……動けなく……なったが。
「最初から許すつもりは……無かったわ」
そ……う嬢ちゃ……んは……言い残す……と……部屋……か……ら……
…。
……。
………。
…………。
……………。
……あ〜〜〜〜〜………。
(むくっ)びっ……くりしたがよ〜〜〜……。
今のはとどめ刺されてたらヤバかったがね。
ししししっかし、あのアインって嬢ちゃんはポイント高いが。
こっちじゃデカオがおらんし、できればおクスリで手下にしたいがね。
………けへ、けへへへへへへへ……しっかし、まだ甘い、甘すぎやき。
あーあー、まだおクスリが効いてた時に殺した方がお互い幸せじゃったけねぇ……。
ま、せーぜー泣いてもらうとするが。
体はともかく、壊れた心っちゅうがはセンセにも治せんき……。
夜空に星が瞬くように……
壊れた心は戻らない……ちゅうてねェ……。
けへっ、けへっ、けへへへへへへへへへへへへへ………!