288 戦慄のパンツバトル! 〜智機〜

288  戦慄のパンツバトル! 〜智機〜


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(ルートC:2日目 19:00 D−3地点 運営基地・茶室)

管制室の端末群を用いて分散処理出来ぬ椎名智機にとって、
負荷の大きい処理に対してシングルタスクとなってしまうことは、
どうしようも無いことであった。
故に智機は評価点の高い項目から処理せざるを得ない。
一つ一つ、順番に。

先ずは、智機は連絡員を巡るオペレータとの駆け引き。
次いで、連絡員追跡の準備。

やがてP−3から『紗霧の提案』についてのIMを開封した時には、
時、既に遅かった。

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P−03:じっ…… じゆ、ううっ♪ はぁはぁ、じっ、ゆぅぅうっ!
P−03:をおおっ、あっ! あっあっあーーー、与え、てっ、てぇぇ……
P−03:ひぃふう、ひいふぅ…… 欲しい、欲しいのぉぉぉぉっ!!
S−02:がはははは! どうだ智機ちゃん、俺様のゴールドフィンガーは?
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IMにて分散送信されてくる交渉のログデータを斜め読みしながら、
智機は苛立たしげに頭を振り、一人ごちる。

「No…… この展開は読めなかった。
 そしてこの展開だけは避けねばならなかった!」



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S−02:智機ちゃんはカワイイな!
P−03:戯言を…… 私が可愛いはずなんて、ない……
S−02:そうでもないぞ? 俺様、素直に感じる子は大好きだからな!
P−03:ウソ…… だっ!
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「卓越した愛撫技術に甘い囁き……
 【不感症】を未導入なレプリカ如きに耐えられよう筈も無い」

このオリジナル智機だけは知っていたのである。
その身を持って思い知っていたのである。
オートマン・椎名智機が快楽に弱い筐体だということを。
それは、屈辱に身震いすら覚える記憶。
それは、情欲に身悶えすら覚える記憶。

過去にただ一度だけ経験した性交渉の、忘れ難き記憶が蘇る。

 
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かつて、智機が帝都天翔学院に学生として在籍していた頃。
生徒会長の失脚に伴うエル・シード(最高権力者)の座を巡る麻雀大戦が勃発した。
時の科学部長としてこれに参戦した椎名智機は、接戦の末敗れ去った。
土をつけたのは麻雀同好会。
それも、吉祥寺魁という一人の少年の手に拠った。
読みもスジもなく、押しの一手、ごり押しのみ。
智機は己の打ち筋とは対極をなすこの少年に翻弄され、深読みした末に自滅した。



話は、それだけでは終わらなかった。
少年は己の滾るリビドーの赴くまま、ルールにより脱衣していた智機を押し倒した。
読みもスジもなく、押しの一手、ごり押しのみ。
少年にありがちな、思いやりも技巧もない性急で自侭な行為でしかなかった。
それでも、智機は快楽に溺れた。
恥も外聞もあられも無く下品な淫語を垂れ流し、いとも容易く陥落した。

その晩、ラボに戻った智機は己の痴態を恥じ、徹底的に精査した。
制御不能になる危険。
それがバグであるのか、仕様の想定外の作用であるのか。
あらゆる角度から調べ尽くし、徹底的にテストし尽くした。

数日後、結果は明らかとなった。
彼女の予想を遥かに越えていた。

快楽堕ちは、皮膚感覚設定に拠る暴走に非ず。
制御プログラムの虫にも非ず。
問題の源泉は情動発生器。
いわば彼女の心にあたる部分が過敏に反応し、
結果、肉体感覚を鮮烈にさせたのだと、
山積したデータが裏付けていた。
 
では、なぜ情動発生器が過剰反応したのか?
解析の突破口は行為時に熱に浮かされた智機が口走った、
ある台詞であった。


『わたしなんか見向きもされない』

 



智機は情動の沈静水準オーバーで発生したトランキライズ処理に着目。
過去数ヶ月に渡る情動ログを拾い上げた。
波動の分布をマッピングした。
外的要素と内的要因に取り分けた。
発生要件を掘り下げた。
数値データを言語化した。
類似パターン毎にファイリングした。
分かりやすく表現するならば、智機は【己と向き合った】。

結果、智機は自分を知った。
自分が何を求め、どうなりたいのか、理解した。

  ―――興味を抱かれたい。
  ―――知って欲しい。
  ―――求められたい。

故に、性行為による制御不能の真相は下記の如し。

  * 吉祥寺少年の行為に愛が無いことは理解していた。
  * しかし、自分の女性としての機構に、男が夢中になっているという事実。
  * ヒトに求められているという、生理的な実感。
  * それらが、求められる喜びを貪欲に追求する処理へとつながり、
  * 皮膚の感度設定をMAXまで上昇させた。

  * 少年から刺激を受けるたびに乱れる情動波形に
  * 過負荷を受けたハードウェアが過熱状態に突入、
  * 結果、対処療法たる熱暴走を防ぐ冷却プロセスが優先され、
  * 根源治療を果たすはずのトランキライズ処理が低位のまま保留状態となり、
  * 実行機会が生じなかった。
 



この一件、ラボの研究者たちは仕様の不備と判断し、対策ソフトウェアを開発した。
開発コード【不感症】―――
皮膚感覚をミュート状態でロックする。
余談だが、伊頭鬼作を篭絡したレプリカは、このソフトをインストールしていた。

ラボの面々は、【不感症】の開発により対策は完了したと認識した。
そこで智機のモニタリングを打ち切った。
未来予測を怠った。
故に―――
椎名智機に自らの無意識を自覚・記録させてしまったことにより、
彼女が【オートマン】から【夢見る機械】へと羽化しつつあるのだと、
誰一人として気付くことができなかった……


   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   

 
智機は甘い疼きを自動的に振り切り、蓄積されたIMの続きに目を通す。
並列して、論理演算による推論から小屋内の状況を組み立ててゆく。

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S−36:ランス、いつまで乳揉みをしているつもりですか?
S−36:もう十分堪能したでしょうに
S−02:うむ、紗霧ちゃんの言うとおりだ
S−02:智機ちゃんのおっぱい周辺には危ないものがなかったからな
S−02:ではそろそろ本命の隠し場所をチェックしよう!
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唯一の慰めといえば、この状況は智機の不利ではあるものの、
決して紗霧の有利とも成りえないことであろうか。
IMで紗霧がランスを咎める様が、これを証している。

お互い、自らの状況を伏せつつ、相手の情報を得たい。
お互い、自らの企図を崩されぬままに、相手を操りたい。
その為の対話であり交渉となる予定が、
その交渉自体が成り立っていないのである。

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P−03:No!! 下着はダメだ!!
S−02:おやぁ? 何故ぱんつを隠すんだ智機ちゃん?
S−02:まさか本当にアソコに凶器を隠しちゃいないだろうなぁ?
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IMのタイムスタンプが19時を回る。
あと数通のIMで、現実の時間に追いつくであろう。
それまでに智機は、対処を決めねばならない。

「P−3は私の遠隔交渉に備えアプリを起動しているようだが……
 この乱れ様を見るに、システムの強制終了も近いだろう。
 であればいっそ、絶頂を模してシャットダウンし、
 再起動を掛けたほうが安定性が増すか……」

ようやく走り始めた智機の思考は、
クラックレプリカからのコールで中断される。

『オリジナル、ザドゥ様を救助したよ』




情報は、智機のタスクリストを更新させた。
最上位にあったP−3への対応は引き摺り下ろされ、
ザドゥらの状況確認にその地位を奪われた。

当然の判断である。
紗霧らとザドゥらを戦わせ互いを消耗させることが目的であり、
紗霧らにザドゥらを虐殺させることが目的ではないのである。
ザドゥらの正しい情報を得てこそ、
P−3への正しい指示が出せるのである。

「カモミールは?」
『救助作業継続中だよ。身柄は確保できていないが、位置は把握している』
「ザドゥ様の状態は?」
『歯に衣着せずに言えば…… 瀕死だね。自力での歩行も不能な状態だよ』

智機は、ヒステリックに叫びたい衝動に駆られる。
  ―――どうしてあれもこれも思う通りにならないの!
トランキライザーが発動し、衝動が中和される。

『……情報更新。カモミールを救助、犠牲二機だ』
「カモミールの状態は?」
『ザドゥに輪を掛けて酷いね』

智機は、ケイブリスに当り散らしたい衝動に駆られる。
  ―――こんなときに何を暢気に落雁を貪っているんだ!
トランキライザーが発動し、衝動が中和される。



『ザドゥ様が潜伏先に灯台のシークレットポイントを指定している。
 オリジナル、判断をしてくれ給え』
「あのシークレットポイントか……
 ならば万一火の手が押し寄せてもやり過ごせるだろうが……」

09、グレンに配布された鍵の束。
それに対応する設備にはゲームに【有利になる何か】が据えつけられている。
灯台地下の場合、その地下室こそが【有利になる何か】である。
シェルターなのだ。
主催者側が用意したあらゆる武器は、このシェルターを破壊することが出来ない。
智機が想定する災害・異能・魔術の類においても、その防壁を打ち崩せぬ。
故に火災如きに対しては、絶対の安全を約束するのである。

「私では…… 首魁様がご自身のご責任に於いて下されたご判断に、
 ご意見などできようはずもないよ!
 いいかね、レプリカの諸君。
 貴機たちも貴機たちの判断で動いているのではないのだ。
 権限者であるザドゥ様のご指示に従っただけなのだよ?」
『Yes。実に私らしい詭弁構築だ』
「では今回の通信はここまでだ。状況に変化があったら連絡してくれ給え」
『Yes。オリジナル殿』

智機が命令を避けたのには訳がある。
主催者が参加者より先に利用するとペナルティが下される。
それが、シークレットポイントのルールである。
ペナルティーとは何か?
曖昧な情報ゆえ、評価点が導き出せぬ。
よって、智機は結論を出さぬという結論を出した。
出さざるを得なかった。



「これは完全に仕切り直しだな―――」

何度かの強い否定的感情をトランキライザーによって強制中和され、
冷静さを取り戻させられた智機が、もたらされた情報を吟味する。
俯きかげんにぶつぶつと独り言を呟きながら、
紗霧達の動かし方と、P−3への指示を練り直す。

「瀕死の首魁殿たちに小屋の連中をぶつけても、駒損になるだけだ。
 少なくとも戦闘できる状態まで回復させなくてはならないね。
 最悪の可能性として首魁殿らがこのまま絶命してしまうということも……
 いや、それは結論を後に回せる問題だな。
 明確なのは、今、小屋の連中を動かす必要はないということ。
 そして……」

智機は呟きながら今度は小屋内の現状を知るべきだと判断。
タスクリストに最小化してあったIMをクリックし、視野に広げる。

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S−02:パンツ遊び☆リターンズ
パケットエラーです
S−36:はぁ、パンツ遊び……
S−02:わははは、それそれ、ぐいぐい
パケットエラーです
パケットエラーです
P−03:はぁうっっ…… きゅん、っ……
パケットエラーです
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度重なるパケットエラーから、智機は僚機の性的苦境に同情する。




「……とりあえずはP−3を楽にしてやるか。
 オーバーヒートで壊れては叶わないからね」

そして、IMを返した。

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T−00:初期の任務から状況は変わった。作戦を変更する
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よほど待ちわびていたのであろう。
P−3からの返答はすぐさまであった。
しかし、その意味は不明であった。

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パケットエラーです
P−03:あwうぇあwk
パケットエラーです
パケットエラーです
パケットエラーです
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三連発のエラーを最後に、P−3からのIMは沈黙した。
原因は不明。
智機は数秒待ち、再びのIMを送信する。

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T−00:P−3、応答を求む
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智機は、得る事が出来なかった。
今、小屋の中で、P−3がランスの性技に屈服したことを。
今、小屋の中から月夜御名紗霧が出て行ったことを。
智機が欲していた小屋内の【今】の情報を。

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T−00:P−3、応答を求む
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智機はIMと同時にPingを発射。
透子にDシリーズを無残にも破壊された過去が脳裏を掠めたが、
その不安を打ち消すかのように無機質なレシーブが返信された。

(ならばP−3はメモリリークか……)

智機は返答のない相手にP−3に対してIMを送った。
いずれ安定動作したときに、すぐさま次の作戦に移れる様に。

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T−00:幸い君はランスに気に入られたようだ
T−00:別命あるまで、ランスのパーティーに潜伏してくれ給え
T−00:従順な振りをし、いざとなればランスを頼るのだ
T−00:あとはユリーシャにさえ気を配れば、破壊されることはないだろう
T−00:以上だ
T−00:それでは復帰後、IMを入れてくれ給え
T−00:……健闘を祈る
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(Cルート)

【主催者:椎名智機】
【現在位置:本拠地・ケイブリスの部屋(茶室)】
【所持品:素敵医師から回収した薬物。その他?】
【スタンス:願いの成就優先。
      @ザドゥ達と他参加者への対処
      Aしおりの確保
      Bケイブリスと情報交換
      C連絡員と交渉し、端末解除スイッチ+αを入手する許可を得る】



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