089 S2U(Song To You)
089 S2U(Song To you)
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東の森
(13:18)
「………っ!?」
知佳をおぶって、長時間走ったせいか、恭也の膝が悲鳴を上げはじめた。
(そろそろ俺の膝も限界だな、
…周囲に人の気配は………ないな)
「……追って来る気配はないみたいです。…少し休みましょう」
恭也は知佳に休息を提案した。
「…はい、すみません恭也さん」
「…いえ、気にしないで下さい」
まず、おぶってきた知佳を地面に座らせ、
恭也は自身は背後からの不意打ちを避ける為に大木を背にして休息した。
先の戦いでの出来事を一人考る。
(…なんとか逃げられたな。
……遠目で見ただけなので断定は出来ないが、
グレンさんはランスという男に斬られた……。
…あの凄まじい攻撃が当ったのだ。……たぶん即死)
犠牲となったグレンのために少しの間手を合わせる。
―――御神の剣は「剣道」ではなく『剣術』『人殺し』の剣。
幼少の頃から父「士郎」に言われてきた事。
(…そんな事は昔からわかっている!わかりきっていることなのだが…)
「…人が殺される所を見て動揺するとは……、御神の剣士失格だな」
自嘲気味に恭也は呟き、いまは亡き父のことを思う。
(…とーさんも、初めて人が殺される所を見た時は動揺したのだろうか?)
(……………とーさんのことを考えてもしょうがないな。
今は目の前にいる人を守る!……まずはこれを最優先しよう
そして、次の優先事項は主催者打倒の同志を集めることだな…。)
自分の心の中にある不安にケリをつけ、守るべき人――知佳の方へ目を向ける。
(…呼吸も整ったみたいだな…。まずは、お互いの情報交換をするべきだな…)
落ち着きを取り戻した二人は、お互いの情報を交換することにした。
―――この島に集められた約40人の人達は自分達とは違う世界の住人であること。
――今までのこと。
―そして、これからのこと。
「………つまり、恭也さんは『みんなで助かろー』と考えているわけですよね?」
―知佳は恭也に自分自身の能力を言わなかった。
――普通ではない自分が嫌われないために…。
「…まぁ、簡単に言うとそんなところです」
―恭也もまた知佳にある情報だけ隠した。
――その情報を隠す事が知佳のためだと信じて…。
情報交換を終えた二人は休息のついでに、しばし雑談モードに移行した。
同じ世界の、同じ町の出身だけあって話の話題が尽きることがない。
「へぇー、翠屋の店長さんの息子さんなんだー。恭也さん」
「……ええ、今度、店に来た時はおまけ……!?」
恭也はこちらに向って来る謎の気配を察知して、会話を中断した。
(……何かが来るっ!…物凄いスピードで!!)
―――――!!
「……!?あぶないっ!!」
「キャッ!」
―――ドン!!
まだ、動く事の出来ない知佳を恭也は庇う事に成功した。
(13;32)
(なにかがぶつかったが!?………俺の体は、…問題ないな)
「大丈夫ですか仁村さん!?怪我はないですか?」
「う、うん。大丈夫だよ『お兄ちゃん』」
知佳の言った言葉が気になったが、頭の隅に追いやり、
恭也は目の前の老人を見据える。
(………この老人隙がないっ!……できる!?)
知佳を庇うようにして立ち老人をにらむ。
「ふぅ、すまなかったのぅ。少々余所見をしていてな。
ああ、ワシは君らに危害を加えるつもりはないぞ。ゲームには乗っていないからの」
「は、はぁ」
「そうなんですか」
二人は老人の予想外の台詞を聞き、間抜けな返事をする。
「ふむ。どうやら、また若き男女の恋路を邪魔してしまったようじゃな。すまんのう」
老人は一人勝手に納得する。
「は?」
「ち、違います。わたし達は別に恋人じゃないです」
「まあまあ、照れなくてもいいんじゃよ」
恭也は鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をし、知佳は真っ赤になって魔窟堂の言葉を否定した。
老人はそんな二人を微笑ましく見る。
「と、こんな事をしている場合ではなかったんじゃ。
君らは、黒髪でショートカットの無口な少女か、紫のストレートロングに黄色いキャップを
かぶった強気な少女には会っていないかの?」
老人は真面目な顔に戻り、2人に訊ねた。
「え、俺は会っていませんが」
「……わたしも会ってません」
「では、アインという名前や朽木双葉という名前に聞き覚えは?」
「無いです」
「わたしも」
「そうか。では、邪魔者はもういなくなるからの。愛の語らいの続きをしてくれ。では…」
「待ってください。あなたは一体? それにゲームには乗っていないって」
恭也は老人を呼び止めた。
「ワシの名は魔窟堂野武彦。ゲームに乗っていないというのは言葉通りじゃ。
ワシらは、島からの脱出、あるいは主催者の打倒を目指しておる」
「え、本当ですか!」
自分達と同じ考えのものが多くいることを知り、驚きの声をあげる。
「ああ、本当じゃ。
見た所、君らもゲームには乗っていないようじゃから、できればワシらの本陣へ案内したい
んじゃが、あいにくワシは人を捜していてのう。
ワシらの本陣は病院じゃ。気が向いたら訪ねてみてくれ。では、さらばじゃっ!」
そう言うと、2人の返事を待たずに魔窟堂は再び凄いスピードで走り出した。
(……仁村さんの恋人…)
(……恭也さんの恋人…)
魔窟堂が去った後、二人の間には気まずい空気が流れていた。
「…………あのーさっき『お兄ちゃん』って」
魔窟堂に知佳の恋人と言われて動揺したのか、恭也は強引に話題を変えた。
……それも悪い方向に。
「す、すみませんー、さっきも言っちゃいましたね。
え、えっと〜、恭也さんとが頼もしいから、思わず……」
たどたどしく知佳は説明する。
「いいですよ。……別に気にしていませんから…」
(うう。恭也さん、気にしていないと言いつつも、怒ったような顔してるよ〜)
恭也が怒ったような顔をしている時は、嬉しさのあまりに顔がニヤけない様に
必死で堪えているということを、
知り合って間もない知佳は知る由もないのであった。
(…さ、更に気まずくなったよ〜。
…あ!足元に何か落ちている)
知佳は魔窟堂が落としたモノに気付いた。
「あ、MDプレィヤーだ。MDも入っている、…聴いてみてもイイかな?恭也さん」
今度は知佳が強引に話題を変えた。
恭也が拾い、罠が仕掛けられてないか調べ、知佳に渡す。
「…どうぞ、…仁村さんは歌とかよく聴きますか?」
「うん♪いろんなジャンルの曲を聴きますよ。ちょっと聴いてみるね♪」
『(;´Д`) < ヴォエ〜』
「(;´Д`)……………………………」
みなみおねえさんの歌は、知佳にとって未知のジャンルだった…。
「仁村さん、どうですか?」
「(;´Д`)……き、聴いてみますか?」
「……はい」
周囲に気配が無い事を確かめて恭也は曲を聴き始めた。
(………!?フィ、フイァッセの声だ!
…………歌詞は非常に独創的だが!!)
「あはは、恭也さん、どうかな?」
ぎこちない笑みを浮かべながら知佳は感想を尋ねた。
(……たしかフィリス先生がフイァッセの声には、ヒーリング効果があると言っていたな…)
「(´▽`)いい声ですね。仁村さん、この曲を聴き続けてみては?」
(この歌、精神的に疲れている仁村さんの役に立ちそうだな…)
「……え゛!わ、私が聴き続けるんですか!?」
予想外の答えが返って来て知佳はうろたえた。
「ええ、俺の知っている医者が、この声にはヒーリング効果があると言っていました」
……善意で言っているのは分かるが、
…正直、知佳はこの電〇ソングを聴きつづけたいとは思わなかった。
知佳は考えた、グレンに貞操を奪われそうになった時よりも…。
「で、でも恭也さんの方が疲れているみたいだから、恭也さんが聴いてて下さい」
(こ、この理由なら聴かなくてすむかも)
少し考え(あくまでも善意から)恭也は提案した。
「……では、こうしましょう。
イヤホンは二つに別れていますから、お互い片方の耳に付けましょう」
(…うう。ここで変に断ったらまた気まずい空気が流れてしまう)
「……………………………はい」
これ以上気まずい空気に耐えられないと判断し、知佳は承諾してしまった…。
(うー。…もしかして恭也さんわざと?
もし、そうなら「耕介お兄ちゃん」や「真雪お姉ちゃん」より意地悪のような気が…)
そんな事を考えながら、知佳は少し頬を膨らまして恭也を見つめた。
♪げっちゅ〜げっちゅ〜げっちゅげっちゅ
♪きみ〜の〜こと〜らぶいんにゅ
【グループ:高町恭也・仁村知佳】
【現在位置:東の森(休息中)】
【高町恭也(No8)】
【スタンス:力無き人を守る】
【所持武器:救急医療セット、小太刀、ポータブルMDプレィヤー】
【能力制限:疲労・なし(´▽`)
膝の古傷(長時間戦闘不可)】
【仁村知佳(No40)】
【スタンス:恭也について行く】
【所持武器:不明】
【能力制限:超能力 (消耗中につき読心、光合成以外不可)
疲労・中(;´Д`)「光合成」発動中】