136 カモミール、砲撃する

136 カモミール、砲撃する


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(一日目 18:30 灯台内)

怪獣の如き叫びと共にグレン・コリンズ(No,23)の触手がアイン(No,26)
に向けて横薙ぎに迫る。
「……………」
だが、アインは床を蹴り、グレンが振ってきたその触手の上に手を乗せ、そのまま
鉄棒の要領で両足を振り上げる。
そこに叩き込まれるもう一本の触手。
とっさにアインは腕を折り曲げ、両腕の筋肉だけで体を真上に飛ばす。
直後に触手同士の衝突音。
「あああああ痛アアアアァッッ!?おおおオノレ小娘エエエェェェ!!」
苦悶の声を上げるグレン。更に激昂し、触手を振り回す。
その注意は完全にアイン一人に向いていた。
「よしッ!」
まだ出血の止まらない右足をかばいつつ、法条まりな(No,32)が部屋の壁沿いに走る。
一定の所まで進んで横っ飛び。
その手が解除装置を掴んだ。
「OKよアイン!」
「了解」
まりなの声に、アインの動きのパターンが変わる。
後退から前進へ。
「アアアアギイィィィィィッッ!」
雄叫びと共に繰り出される触手群。しかし、アインから見ればその動きを見切る
事は容易い。
大上段から振り下ろされる一本の触手。
アインは跳躍してその触手の上に乗り、そのまま駆け上がる。
「ナッ!?わ、わたっ私を踏み台にいいぃぃぃぃ……」
「……遅いわ」
グレンが台詞を言い終わる前に、アインの足がグレンの顎の先端に命中した。



「ハガッ!?」
血液とも異なる妙な色の物体を撒き散らしつつグレンの頭部が床に落ちる。
すかさずその延髄に両足で突き蹴り。
「ハンギャアアアアァァァ………!」
断末魔の声を残し、グレンは白目を剥いた。
同時に、彼の体が再び縮小を始めた。どうやら薬の効果が切れたらしい。
「………流石ファントムね……」
「……アインでいいわ。その名で呼ばれるのは好きじゃないから……」
荒い息で言うまりなに対し、アインは息切れ一つ無く答える。
「それで、これからどうするの?」
「……とりあえずコイツが起きたら、貴方の首輪を解除させるわ。
 それまではお互い、情報交換といきましょ……」






(18:35 東部海岸)

「うぃっつ、らぁぶ・ねごしえーたー♪……あれ?」
主催者側からの刺客その2・カモミール芹沢が『それ』に気付いたのは
灯台に間も無い砂浜であった。
赤黒い『それ』は異臭を発しつつ、ずりずりと這いずっている。
砂と血にまみれた体―――そう呼んでいいものか―――から伸びた四肢は関節の
判別がつかず、蜘蛛のような節足動物を連想させる。
「何かな?」
虎徹の鞘でつんつんとつつく。
「ん〜〜〜、まあいっか♪吹き飛ばしちゃお」
そう言ってカモミールがカモちゃん砲に点火しようとした瞬間、
「……ま、まま待つ……がよカモミール……」
『それ』が言葉を発した。


「せせせ……センセ、88mm砲はノー……サンキューやき……」
「……あ?まさか素っちゃん!?」
『それ』は自分よりも先に出撃していた素敵医師だった。
「あらら、随分やられちゃったわね〜。一体どーしたっての?」
「きひっ、きひひ……センセとした事が、とんだ医療ミスしたぜよ……。
 宇宙人が巨大……化してセンセ……飛ばされたき……」
「???……なんだかよくわかんないけど、仕留め損ねちゃったワケね?」
「ぶぶぶ、ぶっちゃけそーゆー事ぜよ。カモミール、油断はノーグッドじゃき、
注意しとーせ……センセ、流石にヤバいから一旦帰還するき」
そう言い残し、素敵医師はずるずると移動を始める。
「ニャハハ、素っちゃん安心していーよ?アタシは素っちゃんと違って策略って苦手だから」
その背中にカモミールは軽く答えた。
「……これで全部吹き飛ばすだけだからサ」
カモちゃん砲が不吉な光沢を放つ。
カモミールは、再び灯台に向けて歩き出した。






(18:47 灯台内)

「おいミス法条、本当にいいのかね?彼女は……(がすっ!)あうっ!?」
「……いいからさっさと解除して。大体、私達をさっきまで殺そうとしてたアンタの台詞じゃ
ないでしょーが(ぐりぐり)」
「あたたっ!食い込ませるな!わ、分かった!」
「……貴方達、いつもこんな感じなの?」
「ふ、フン!黙っていろ、始めるぞ」
……………
……………
……………
解除音。
「………フゥ〜〜〜ッ……よし、解除できたぞ」
「……………」
首輪が取れて外気に晒された部分を、アインはしばらく撫でた。
「……ありがとう」
「む?……う、うむ」
言われ慣れない礼にとまどうグレン。
だが、その返事を待たずアインはまりなに向き直った。
「それでまりな、今後はどうするの?」


「そうね……今までの話を総合すると、魔窟堂さん達がそのまま病院にいる
 可能性は低いでしょうね。とりあえず……」

瞬間、轟音と衝撃がが灯台を襲った。

「のわあっ!?」
「……………!?」
「ちょ……っ!?」

再度轟音。コンクリートの屑がぱらぱらと振り落ちる。

「な、何よコレ!?」
「………まさか……」
「………ななな何だと言うのだ!?これではまるで……!」

三度衝撃、今度はまりな達の部屋の外壁が弾け飛んだ。

「キャ……ッ!」
「………やはり砲弾、それもかなりの大口径ね」
「れれ冷静に判断してる場合かねッ!?」

四発目。グレンの真横の壁が大穴を空ける。

「ひええええっ!?」
「……徹甲弾なのが幸いね。これが榴弾、または焼夷弾だったらもう私達は
 全員死んでるわ」
「チイッ、真打ち登場ってワケ!?」
「(ガ……ガガッ……)」
その時、砲撃が止んだ。続けてスピーカーのノイズ音。
『……ニャハハハハハハハハ!!ビックリした!?ビックリしたでしょ?』
そして外から響く能天気な女の声。
『コホン、あー、聞こえてる?アタシはカモミール芹沢。カモちゃんって呼んでね♪』


「「カ、カモちゃん??」」
思わずハモって呟くグレンとまりな。
『えっとね、アタシザっちゃん……あ、コレ主催者の偉い人のコトね。その人の
めーれーで来たんだけど、そこにいるでしょ!?26番グレン=コリンズ、
32番法条まりな!アンタ達のやってる事はゲーム運営の障害になるの!
―――今から5分待つわ。5分以内にアンタ達の持ってる首輪の解除装置を
コッチに引き渡して、ゲームに復帰してよ」
「……………クッ、誰が……」

まりなが呟くと同時に5発目。

『アハハハハハ!そーすればこれ以上のカモちゃん砲は勘弁したげる♪
 待ってるわよ―!』
―――カモミールの声が途切れた。
沈黙が部屋―――というには風通しが良くなり過ぎているが―――を支配する。
それを打ち破ったのは案の定グレンだった。
「どどどどどどどどどどうするのだミス法条ッ!?」
「……決まってるでしょう。絶対に渡す訳にはいかないわ……」
「しょしょ正気かね!?このままでは木っ端微塵ではないか!?」
「分かってるわよ!」
珍しく激しい口調でまりなが返事を返す。少なからず彼女も焦っているのだ。
「……アイン、脱出できそう?」
「無理ね」
空けられた穴から外を伺いつつ、アインが即答する。
「周囲に遮蔽物は無いし、足場は砂浜で走り辛い……相手は少なくとも数百m
 先から砲撃してるから、隠れての脱出はほぼ不可能ね。せめて日が完全に落ちて
くれれば望みはあるけど……」
そう言いつつ水平線を見る。太陽はかなり沈んでいたが、完全に落ち切るまで
はもう少しかかりそうだった。
「……間に合いそうもないわね……」
唇を噛むまりな。
『あ〜と四分よ〜〜〜♪』
外からの呑気な声。
同時に砲声。あくまで威嚇らしく、今度は衝撃は無い。
「……………ダメなの、オジサマ……!」
自分に首輪を残して死んだ木之下泰男の姿を思い起こす。


一方、グレンは顔をうつむかせ、何かを呟いていた。
「嫌だ……何で、なんで私ばかりがこんな目に……私だけ……いつもいつも私
 だけ……」
ふと、その呟きが止んだ。
「…………私だけ?」
突然、グレンの頭の横に豆電球が点灯した。
「………分かった。私も男だ。腹を決めようじゃないか……」
「!?」
グレンはまりなにそう言うと立ち上がった。
「ミス法条、何とか脱出しようではないか!」
「え、ええ……そうね?」
その変貌に半ば呆然とするまりな。
「とりあえず解除装置の予備部品を取ってくる。その間に、何とか脱出法を考えて
おいてくれ給え。……頼んだぞ」
そう言ってグレンは自分の横にできた大穴からぬめりつつ出ていった。
砲撃の方向とは逆の向きである。
後に残されたアインは、けげんな表情でまりなに尋ねた。
「……ねえまりな、彼は……ああいう人なの?」
「いや、間違ってもあんなの言う奴じゃ……」
そこまで答えて、まりなはある事を思い出した。
「(……『私だけ?』)」
ちょっと待て、あの男はそもそも何の為にここを目指していた?
「!!」
まりなは突然傍らのディバッグを持つと、グレンが出て行った穴に向かう。
「まりな!?」
「分かったわ……アイツ……!」





(18:50 「G・S・V3」)

無数の計器類が明滅する中、グレン・コリンズは独り言を繰り返していた。
「わわわ、私は悪くない……これは一人乗りで、私しか乗れないんだ……し、
仕方無いじゃないか……私は悪くない、私は悪くない、私は悪くない……」

「G・S・V3」発射まであと5分……。



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