011 無題
011 無題
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(一日目 00:00)
勝沼紳一は恐怖に震えていた。
ここに来る前、
かつて聖エクセレント女学園の修学旅行中のバスをジャックし多くの少女を拉致して
青い果実を貪ったもののその後官憲の手により捕らわれ拘置所で死刑執行の時
を待つ身であった時も幼少の頃から体を蝕んできた病魔も今ほどの恐怖を
彼に感じさせたことはなかった。
それほどの恐怖を虎の仮面の男を倒した者に感じたのだ。
「死」の恐怖ではない「殺される」恐怖を。
やがて、自分の順番が近づくに連れて其の恐怖は増加していく。
子供の頃から面倒を見てくれた古手川も頼りになる木戸、直人といった部下もここには
いない。
孤独だ。
そして今まで頼ってきた金も権力もない。
そんな自分が愚かしくすら思える。
「20番、出ろ」
そう言われて我に返る。
すぐに大小さまざまなバッグの中から適当に一つひったくり紳一は外へ
飛び出していった。
いつもならこの様な輩にはこの世のありとあらゆる苦痛を味あわせて
なぶり殺してやるものを、しかし今の紳一にはその様に思考する余裕もなかった。
(01:00)
どれぐらい走っただろうか?
紳一は島の南側の砂浜に来ていた。
「ぐがあぁぁ……」
周囲に誰もいないことに安心したその直後発作が紳一を襲う。
幼少の頃から体を蝕んできた病魔だ。
もがきながらも懐から薬の包みを取り出し服用する。
やがて発作は収まり紳一は自分を取り戻す、この薬を没収されなかったのは幸いだった。
没収されていたら自分の人生はここで終わっている、
そして恐怖も幾分和らいだのか紳一は出発地点の方を見て一言つぶやく。
「馬鹿馬鹿しい。 こんな所で死ねるか」と、
そう、まだ足りないのだ。
青き果実が。
早く、ここから帰り更に多くの果実をむさぼるのだから。
それだけだ。
そしてバッグをひっくり返して中身を確認する。
出てきたのは当面の食料と水、そして地図と時計。
武器は、武器はどこだ?
暗闇の中で手探りであるはずの武器を探す。
数分後に手に触れた物を取り上げようやく暗闇になれてきた目で「それ」を見る。
手の中にあったのは「必勝」と書かれたはちまきであった。
「ハハハ……」
あまりの阿呆らしさに思わず笑ってしまった。
いや、笑うしかなかった。
この様な物で何が出来るというのか。
そして、部下もいない状況とこの体で。
【No.20
勝沼紳一】
【所持武器:「必勝」と書かれたはちまき】
【現在位置:スタート地点から南へ行った砂浜】
【スタンス:本人やる気なれど現在現状に呆れる】
【能力制限:持病持ち(要常備薬)】