006 星の王子様が行く
006 星の王子様が行く
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「ねえ,君名前は?僕は星川翼、王子様だよ。ホッシ―と呼んでくれていいよ。」
その場に似つかわしくない軽い調子で近くに座る少女に声をかける。
ただし女の子にだけ。
自分のことを王子様と呼ぶ少年を見て,女の子は怪訝な顔する。
やがて,その女の子は名前を呼ばれて行ってしまった。
「行っちゃた。かわいいねェ。」翼は一人うそぶく。
ぼんやりと窓から見える月を眺める。ここには月は一つしかない。
彼の端正な顔,その中心よりやや上の眉間にしわが寄る。
先ほど女の子と話していたときとは打って変わって真剣なまなざしで男のほうを見る。
(この首輪,デザインがいまいちだな。爆発するとか言ってたけど,
僕の目貫の能力でならなんとかならないだろうか?
サンテグジュペリがあれば破砕点を突いて破壊できるんだけど…)
彼の承有するレイピアは男達によって没収されている。
男の手下が彼の名を呼ぶ。いつもの彼の柔和な表情に戻っている。
「サンクス」などと袋を手渡す手下におどけてみせる。
廊下に出た彼は自分の袋をまさぐり,その武器を知って破顔した。
それは一本のアイスピックだった。
「ちょっと小ぶりだけど,これならみんなを助けられるね。」
(でも,その前に誰が味方かをしっかりと見極めなくちゃね。)
先ほど覗かせた真剣な表情に戻って彼は一人つぶやく。
「やれるな,翼?」
先ほどの少女が彼の頭をよぎる。まだ彼女が無事ならいいのにと思う。
彼は自分の力では自分の首輪をはずせないことは知っている。
けれど,他の誰かの助けることは出来る。
「僕は王子様だから,ね。」
「ここには誰もいない,と。」
建物を出た翼はその周囲をぐるりと回ってみた。
そこに生きているもの姿はなく,
貴神と呼ばれていた男の亡骸があるだけだった。
「とりあえず,さっきの女の子を探そうかな。」
そう言って翼は,遮蔽物のない大通りを軽快に歩いて行った。
彼もまた皆で生還する道を考えていた。