004 シイする心
004 シイする心
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アズライトは一人の少女と一人の青年が部屋を出て行くのを見ていた。
少女は自分の置かれた境遇におののき,配給された袋を受け取るときも足をよろつかせていてた。
対照的に青年は自信があるのだろうか,不適に笑う男のほうを
殺意を秘めたまなざしで一瞥しゆっくりとした足取りでこの部屋を去って行った。
(あの男の人は大丈夫,多分一人でも戦える人だ。
でもあの女の子、きっと一人じゃ死じゃうな。助けてあげたいけど…
レティシア,僕どうすればいいんだろう?)
アズライトは沈痛な面持ちで次々と部屋を出て行く人を見送っていた。
気弱な彼の瞳にはいつしか涙が浮かんでいた。
(僕は生き残ってもう一度君に逢いたい。
けど,ここにいる人たちだって自分の意志で来たわけじゃないんだ。
この人たちだって帰りたいのは僕と同じなはず。
デアボリカとしての「力」を使えば,生き残ることは出来るけど…
レティシア,君に逢いたいけど,とてもとても逢いたいけど,
自分のために誰かを犠牲にするなんて僕には…出来ない。)
いよいよアズライトの名が呼ばれる。
食料と水,そして一つの武器が収められた袋を受け取る。
ズシリと重い,その袋の重みが何だかやけに悲しかった。
(だから,僕は僕の力を使わずにこの大会に臨もうと思う。
こんな大会馬鹿げてるけど,もう君には二度と合えないかもしれないけど…
その時はごめんね。ごめんね、レティシア…)
いまや決意を固めた彼は部屋を出る。
青い鉱石と同じ名を持つ孤独な闇のデアボリカは,
思い人のことを胸に抱きつつ窓から射しこむ月明かりに照らされた
長く続く廊下を一陣の風となって走りぬけた。
遥かな先を見渡す彼のその双眸にはすでに涙はなかった。