003 鬼畜王出陣

003 鬼畜王出陣


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ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう!
ランスは、内心の動揺をひた隠しにしていた。
あの男。タイガージョーという反乱者を一撃のもとに葬り、
他の屈強なものたちを一瞬で黙らせた男。
あの瞬間、このランス様ともあろうものが、戦慄した。
ちくしょう、許せねぇ。俺様ともあろうものが、あの程度の
プレッシャーにビビっちまったことが許せねぇ。

「次、2番、貴様だ。そこに置いてある袋からひとつ持って、外に出ろ」
男がいった。
1番目は、ユリーシャとかいう小娘だった。彼女は、
ランスが考え事をしているうちに外に出たようだ。
2番は、俺だ。ランスは立ち上がると、袋を取った。
1番から順番に、2分間隔で外に出ることになっていた。
外に出てからは、何をしようと自由だ。とにかく殺しあって、
最後の一人だけが命を助けてもらえる。
だが、ランスには、男のいう通りにするつもりは毛頭なかった。


俺様が勝つ。それは絶対だ。確定事項だ。
だが、その前に、あの男だけはぶっ殺す。絶対に殺す。
ククク、俺様にこんな屈辱を味わわせたんだ。後でたっぷり後悔させてやるぜ。
他の奴らは……。まず、男は全員殺す。女は全員犯して、俺の女にする。
それで決まりだ。何を考えることがあろうか……。

廊下で、袋を開ける。ずいぶん重いと思ったが、中に入っていたのは斧だった。
よし、幸先はいい。俺様が本当に得意なのは剣だが、
何、大天才たるこの俺にかかれば、この斧ひとつで他の全員を殺すことだって簡単だろう。
見ていろ、あの野郎。今度あったときは、俺様が貴様を八つ裂きにする時だ。


通路を出ると、そこは深い森の入り口だった。
自分たちがいたのは、木造の2階建ての建物だったらしい。
ランスには、それが学校というものだとはわからなかったけれど、
今の彼にとって重要なことはそんなことではなかった。
重要なことは3つ。
今が夜で、月が出ていること。
すぐ目の前に森があって、その入り口までの50メートルは、
誰でも飛び道具から無防備になること。
そして、森の入り口に、先に建物を出たユリーシャという名前の少女が、
弩弓を構えて立っているということだ。


「おい。俺は、女を殺したくねぇ」
ランスはそういって、ユリーシャに一歩近づく。
「こ、来ないで……ください」
ユリーシャは、か細い声で抗議した。ランスは聞き入れず、もう一歩踏み出す。
弩弓につがえられた矢は彼の心臓を狙っていたが、その手がぶるぶると
震えていることにランスは気づいてた。
「よせ。慣れないことをするもんじゃねぇ」
「で、でも…」
「お前は、殺さない」
「………」
2歩、3歩と近づく。
「わ、私は……」
「撃ちたきゃ、撃ちな。ただし、当たらなかったらお仕置きだ」
もう、一歩。
緊張に耐えかねたユリーシャが、ひっ、と悲鳴を上げて、引きがねをひいた。
矢は大きく狙いを外れ、校舎の屋根に突き刺さる。
ユリーシャが呆然とする隙に間合いを詰めたランスは、彼女の手から弩弓を
もぎ取ると、そのまま地面に組み伏せた。


「な、何を……」
「お前は今から、俺の女だ」
「な……っ」
「しっ。次の奴が出て来る。こっちに来い」
「え、その……」
「黙ってついて来い。俺は女は殺さん。あの傲慢な男を殺して、お前もこの島から脱出させてやる。
だから、今はさっさと来い」
歴戦の勇士たるランスは気づいていた。自分の次に出て来る男が、
自分より遥かに卑劣で、生き残る為なら容赦のない男であることを、直感で悟っていた。
ユリーシャは、つかの間ランスの瞳を眺めいたが、やがてコクっとうなづくと、立ちあがった。
「この弩弓は…あなたが持っていてください」
「俺は、弓なんて使えねぇよ。お前が持っていろ」
そう吐き捨てて、ランスはユリーシャの手を引き、森の中に入って行く。

ユリーシャは、すでにこの男に自分の身を預ける気になっていた。
それは、彼女の持って生まれた勘、とでもいえばいいのだろうか。
彼女は、知っていたのだ。この男が、彼女を決して裏切らないということを。

もっとも彼女の貞操は、この十分後に奪われることになるのだが。



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