002 狸親父の皮算用
002 狸親父の皮算用
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(一日目 0:26)
ゲーム開始が宣告された建物から、数分おきに人影が出てくる。
ある者は小走りに茂みに隠れ、またある者は悠然と歩を進め。
貴神雷贈(No.10)は、そんな彼らの流れを二重顎を震わせつつ草陰から見つめていた。
自分には戦闘力は全く無い、ならば部下が必要だ。
雷贈が第一に考えた事はそれだった。とにかく腕の立つ用心棒を雇う。
偽善的な台詞は原稿用紙100枚分でも言える自信があったし、何より彼には財産があった。
人間、誰しも欲がある。財力の前に自称「無欲の人」が屈するのを彼は何人も見てきたのだ。
ましてや、強欲な人間ならば……この状況だろうと心は動く。
雷贈の数十年に及ぶ裏の人生訓が語る、最大の訓示であった。
(さっきの連中の中に一人、ちょうどいい男がいました……)
一瞬で抹殺されたタイガージョーの死体に、眉一つ動かさなかった奴が数名。その一人。
顔を見るだけで分かる強欲さと単純さ。はっきりと覚えている。
(さあ、はやく出てきなさい……)
それから数分後、新しい人影が入り口から出てきた。
オールバックの髪にトレンチコート。どことなく鋭さを感じさせる野性的な顔立ち。
(……彼です!)
その青年は、何やらぶつぶつ呟いていたかと思うと、すたすたと歩き出す。
雷贈は、必死に自分なりに気配を消しつつ彼の後を追った。
「ひい、ふう……ひい、ふう……」
少し走っただけで心臓が悲鳴を上げる。
自分の配給袋の重さに驚きつつも、何とか雷贈は青年に追いついた。
「きっ、君!」
青年の体が一瞬こわばり、雷贈の方に顔を向ける。
次の瞬間、雷贈に向かって吹き付けられる殺意。
(さあ、ここが勝負ですよ……)
今にも失禁しそうな恐怖に何とか耐えつつ、雷贈は用意した次の台詞を言う。
「待ってくれ!武器は持っていない!……話がしたいんだ」
「……話?」
青年は気が抜けたような返事を返してきた。ここまでは彼の予想範囲だ。
「ああ、君に……私の財産を受け取って欲しいんだよ」
「???」
青年の顔に疑問符が浮かぶ。殺気が薄れたのを感じ、雷贈は彼に近づいた。
「私は……本土で事業家をしていてね……故郷にささやかだが財産を残している」
「へえ……で、それを何でまた俺に?」
「(乗ってきた!)」
内心で喝采を挙げつつ、雷贈はあたかも慈愛に満ちた表情を作る。
「はっきり言うが、私はこの大会で自分が生き残れない事は知っている。
君達のような若者に、私のような老人が勝てる訳がないだろう……」
「まあ、そうだろうな」
軽く返しつつも、自慢気に胸をそらす青年。
「……このままでは、息子もいない私の遺産は宙に浮いてしまう……
だから君にあげたいんだ……ただ、一つだけお願いがあるんだよ」
「……何だ?」
「私を……ぎりぎりまで守って欲しいんだ。
……最後まで残ったら、私を殺して構わない」
無論、これは大嘘である。最後になったら相討ちにでもさせればいいのだ。
が、
「『……相討ちにでもさせればいいのだ』ってか?
噂通り腐ってるねェ、貴神雷贈さん」
「!?」
何時の間にか、青年の雰囲気が変わっていた。
どことなく口元に悪戯めいた表情を浮かべて、彼は更に言葉を続ける。
「貴神雷贈……全国に存在する貴神学園理事長。
その実態は……人身売買のエロ爺ってな……」
「ななな……」
もはや演技をする余裕も無く、雷贈はがくがくと体を震わせる。
「……はっきり言って、あんた生きる価値……無いぜ」
銃声は一回のみ響いた。
「よいしょ……っと。何入ってるんだこれ……?」
青年……海原琢磨呂は、雷贈の袋を担いで、その場を後にした。
「まずは……一人っとな……」
【10 貴神雷贈:死亡 】
―――――――――残り
38
人
【No.13:海原琢磨呂】
【所持武器:銃器(詳細不明)
:重い物(詳細不明)】
【スタンス:近づいてきたら殺る】
【能力制限:無し】