303 暴風雨警報、解除のお知らせ

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(ルートC・2日目 PM11:55 H−3地点 花園)


島の北々東に群生する色とりどりの花たちの中から、
けふけふと、湿った咳払いが聞こえていた。

仁村知佳である。
背中の翼で命からがら灯台跡から逃亡した彼女は、
力尽きるまで飛行し、落下するように降り立って、
今は、花々に囲まれて仰向けに横たわっていた。

銃創に刀傷。
共に骨や臓器への影響は無かったものの、そこからの出血量は夥しかった。
体力の消耗と疲弊感も激しかった。
自らの傷口へと念動を向けて押さえつけ、血液の流出を留めてはいるが、
それでも知佳は、冷えを増していく体温を止められずにいた。

(保つかな……)

知佳の翼・エンジェルブレスは、日光をエネルギーに変える
光合成デバイスとしての役目をも持っている。
故に、朝日さえ出てしまえば、体力は回復に向かうであろう。
しかし、来光までの六時間余り、命を繋ぐことができるのか?
それが、知佳には判らない。
病院跡や集落へと戻ることも、知佳は考えたが、
移動に掛かる疲労消耗と、潜伏による消耗回避とを秤にかけた末に、
じっと朝を待つことを選択していたのである。

そこに――― N−21が現れた。


「おはなばたけ……?」

唐突に、前触れ無く。
透子のテレポートと同じく。
気の抜けた感想を漏らしながら。
後ろ手に何かを持った姿勢で。

それで、知佳の違和感が解消された。

「透子さん、なの?」
「にありーいこーる」

N−21は曖昧に肯定した。
曖昧ではあるが、正しい返答でもあった。

「借りを返しに来た」

N−21――― 透子は、そういいながら後ろに回していた手を、知佳に伸ばした。
知佳は目を閉じる。
ここで撃たれても斬られても、それは自業自得であるのだと。
知佳は、透子の報復を安堵と共に、受け入れた。

「……寝たの?」

数秒後に透子から発せられた見当違いな質問に、知佳は目を開ける。
透子が知佳に伸ばした手に、銃器は握られていなかった。
魔剣も握られていなかった。
握られていたのは、薬箱であった。

「あげる」


それは、素敵医師の薬品小屋からかき集めたまっとうな医療品であった。
朝日まで保たぬかも知れぬ知佳の命をそれまで維持させるものであった。

「説明、面倒」
「読んで」

知佳は透子の申し出通り、透子を読心にかける。

【これは鎮痛剤これは解熱剤これは睡眠薬頓服薬だから必要に】
【応じて飲んででも睡眠薬はザドゥたちのと同じで十二時間目】
【醒めないからそのつもりであと包帯と消毒液も持ってきた傷】

透子の心中には、薬品の説明が流れていた。
そこに知佳への報復を示す一切の感情は感じられなかった。

「借りを返す、って……」

知佳は戸惑う。
その言葉は、裏切った事に対して、殺害した事に対して、
殺意を持って向けられていたのだと思っていた。
そうではなかった。
逆説的な慣用句としてではなく。
正しい意味での感謝を、透子は抱いていた。

「紳一を倒してくれて」
「ありがとう」
「自殺を止めてくれて」
「ありがとう」
「天使を読んでくれて」
「ありがとう」


「私のほうがいっぱい」
「ありがとう」

そういう、借りであった。

「でも、殺されたし」
「お薬、あげたし」
「そろそろ潮時」
「…………ね?」

貸し借りはこれで清算であると、透子は言った。
プレイヤーと主催者という立場に戻りましょうと、透子は告げた。
言葉の裏を捉えれば―――
それは、二人には淡く儚い友情が結ばれていたことを
確かに証しているものであった。

「ばいばい、知佳」
「さよなら、透子さん」

今度は戦うと、今度は殺すと。
その直裁な言葉のやり取りを無しにして。
それでもそういった意味を理解して。
二人は静かに決別する。


【御陵透子(N−21)復活

―――――――――主催者 あと 4



(ルートC)

【グループ:ザドゥ・芹沢・透子・智機】
【現在位置:J−5地点 地下シェルター】
【スタンス:待機潜伏、回復専念】

【主催者:椎名智機】
【スタンス:@【自己保存】
      A【自己保存】の危機を脱するまで、透子には逆らわない
      B【自己保存】を確保した上での願望成就】
【所持品:スタンナックル、Dパーツ、改造セグウェイ、軽銃火器×3】

【監察官:御陵透子(N−21)】
【スタンス: @願望成就
       Aルドラサウムを楽しませる】
【所持品:契約のロケット(破損)、スタンナックル、改造セグウェイ、
     魔剣カオス】
【能力:記録/記憶を読む、
    世界の読み替え:自身の転移、自身を【透子】だと認識させる(弱)】

 ※ザドゥと芹沢はあと六時間は目覚めません。


【現在位置:H−3 花園】

【仁村知佳(40)】
【スタンス:@潜伏。朝日を浴びて「エンジェルブレス」にて傷を回復させる
      A手帳の内容をいくつか写しながら、独自に推理を進める
      B恭也たちと合流】
【所持品:テレポストーン(2/5)、まりなの手帳、筆記用具とメモ数枚】
【能力:超能力、飛行、光合成、読心】
【状態:疲労(中)、出血(大)、脇腹銃創、右胸部裂傷】
【備考:定時放送のズレにはまだ気づいていません。
    手帳の内容はまだ半分程度しか確認していません】

 ※強力な睡眠薬を服用したため、12時間は目覚めません
 ※傷は念動と医療器具で止血、縫合済みです
 ※薬品類は使いきりました




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