285 戦慄のパンツバトル! 〜紗霧〜

285 戦慄のパンツバトル! 〜紗霧〜


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(ルートC:2日目 18:50 D−6 西の森外れ・小屋3)

いらだちをポーカーフェイスでくるりと包み、
心で舌打ちを乱打しているのは月夜御名紗霧。
彼女は交渉とボディチェックを同時進行させるという
己の提案を心底後悔していた。

(ああっ、ホントに、全く、もうっ!)

相手に飲まれずに交渉を進める為に、ランスを投入して場を乱す。
己の思考力を回復するのではなく、相手の思考力を低下させる。
紗霧の意図ではあった。
確かに効果は上がっている。
しかしその効果は、ランスの暴走と智機の自制心の無さによって、
もはや紗霧の手の届かぬところまで上がってしまっていた。


  ―――言ってみろ


(だらしないです。だらしなさ過ぎです、椎名智機!
 貴女ロボットでしょうが!
 それとも実はダッチワイフですか?
 要らぬ科学を無駄に詰め込んだ非モテ男の夢と希望の結晶か何かですか!?)

油断ならぬ交渉人であるはず目の前の人型機械は、
今や雌達磨と成り下がっている。
四肢が、脱落したのだ。
ランスの愛撫より生まれたあまりの快楽によって。




「じっ…… じゆ、ううっ♪ はぁはぁ、じっ、ゆぅぅうっ!
 をおおっ、あっ! あっあっあーーー、与え、てっ、てぇぇ……
 ひぃふう、ひいふぅ…… 欲しい、欲しいのぉぉぉぉっ!!」

自由を与えて欲しい。
言葉の体を為さぬ智機の言葉は、このような意図を伝えようとしていた。
紗霧はビクンビクンと震える彼女に三度聞き返し、ようやくそのことを理解する。

交渉の開始から十余分。万事がこの調子だ。
因みに紗霧が智機より得た情報は、下記六項目のみである。

 1.椎名智機とは主催者ではない。主催者の備品である
 2.備品ではあるが、意思を持っている
 3.備品ゆえに、主催者に牙を向かぬよう、制御がかかっている
 4.東の森の火災に主催者たちが巻き込まれたため、指揮系統が混乱している
 5.自分は、その混乱に乗じて上手く指揮の輪と監視の目から逃れることが出来た
 6.主催者の殲滅による3の制御からの脱却が、智機たちの望みである

それらは智機たちの立場説明に過ぎぬ。
紗霧はまだ一片の情報すら渡していない。
交渉は、まだ始まってもいないのだ。

「がはははは! どうだ智機ちゃん、俺様のゴールドフィンガーは?」

智機の背後にぴたりと張り付くランスが、
胸を揉む手を止めぬまま、智機に問うた。
言葉こそ智機に掛けられているものだったが、
目線はテーブルのこちらの紗霧に向いていた。



(まったく、この男ときたら……)

ランスは、見せ付けているのだ。
なんの意図があってそのようなことをしているのか紗霧には分からぬし、
どうせ下品な意図だろうから分かりたいとも思わないが、
彼は確かに含むものを持っているのだと、紗霧は確信している。


  ―――言ってみろ


それが紗霧の苛立ちを加速させる。
もう紗霧はポーカーフェイスを崩している。
舌打ちも音に出している。

自慢げな笑い声を響かせているランスも。
ド下品なアヘ顔を晒す智機も。
それを傍観している自分も。
紗霧は、何もかもにうんざりし、苛立っていた。

それでも紗霧は、苛立つ自分に流されなかった。
感情と思考を別の流れとして制御したいた。
この光景の何にそれほど苛つくのか。
並々ならぬ苛立ちの根源を探るべく、紗霧は思案を巡らせる。


  ―――言ってみろ

       


それに、ブレーキがかかった。
それ以上追求してはダメだと。
その方向に視線を向けてはダメだと。
思考の流れが、何かに止められた。

「智機ちゃんはカワイイな!」
「戯言を…… 私が可愛いはずなんて、ない……」
「そうでもないぞ? 俺様、素直に感じる子は大好きだからな!」
「ウソ…… だっ!」

ゴトリ。テーブルの下で何かが落下音を立てた。
と、同時に紗霧の鼻を突いたのは濃厚な雌の匂い。
それが智機の顔を不快げに歪ませた。


  ―――言ってみろ


「ランス、いつまで乳揉みをしているつもりですか?
 もう十分堪能したでしょうに」

苛立を隠し切れぬ紗霧が、怒りの形相でランスにボディチェックの終了を促す。
もう、何度も紗霧はランスに同じ内容を訴えている。
言葉で、態度で、目線で。
ランスはそれを全て却下している。無視している。
しかし。
 
「うむ、紗霧ちゃんの言うとおりだ。
 智機ちゃんのおっぱい周辺には危ないものがなかったからな」



ここに来てランスはようやく紗霧の言葉を受け入れた。
苛立ちがほんの一瞬だけ緩和され、胸を撫で下ろした紗霧だが、
続くランスの行動に、油断した己を恥じずにはいられなかった。
ランスは、テーブルの下にいそいそと潜り込んだのだ。

「ではそろそろ本命の隠し場所をチェックしよう!」
「No!! 下着はダメだ!!」
 
ランスは紗霧の言葉を、自分の都合の良いように勝手に解釈したらしい。
乳のチェックが終れば股間のチェック。
要らぬ所で知恵が回ることだと、紗霧の偏頭痛は益々深まってゆく。

「おやぁ? 何故ぱんつを隠すんだ智機ちゃん?
 まさか本当にアソコに凶器を隠しちゃいないだろうなぁ?」

ランスとて、この対談の重要性は理解しているはずだ。
己が担うべき役割、紗霧が期待している働きも理解しているはずだ。
であるにもかかわらず、この無軌道ぶりは、何であるのか?

余りにもフリーダム。
余りにもガキ大将。

紗霧は思い知った。
ランスを制御できるなど、思い上がっていたのだと思い知った。
実際、平時のランスの手綱は取れていた。
だが、この暴れ馬は一旦野に放ってしまおうものなら、
己の気の済むまで走りきらぬ限り、或いは足でも折らぬ限り、
決して足を止めることはないのだと、紗霧は痛恨の痛手として反省した。



そんな紗霧の落胆を知ってか知らずか。
いや、知っているに決まっているランスは、
またしても紗霧の神経を逆撫でる。

「パンツ遊び☆リターンズ」
「はぁ、パンツ遊び……」

テーブルの下からランスの底抜けに愉快な声が響き渡り、
紗霧はその内容の余りの阿呆らしさに深い溜息を漏らす。

紗霧は心底呆れた。
しかし、緊張した。
おかしなことだった。
呆れと緊張は、普通は並列しない。

紗霧はその違和感を意識する。


  ―――言ってみろ


意識しない。
意識してはならない。
意識は逸らさねばならない。
 
「わははは、それそれ、ぐいぐい」
「はぁうっっ…… きゅん、っ……
 私の負けだ。もうどうにでもするがいい……」



智機がついに陥落した。
その解放と諦観の入り混じった投げやりな言葉の響きに、
紗霧の中の何かが、記憶と、繋がった。


  ―――言ってみろ、お前は何だ?


鍵が差し込まれた。扉が開かれた。
その向こうから、記憶が雪崩れの如く押し寄せた。
そうなってはもう、意志の力で押さえ込めるものではなかった。
押さえ込まれて、押さえ込まれて、反発力を高めきったそれは、
フラッシュバックとなり、紗霧を追体験の淵に追い込んだ。


  ―――遺作お兄さんの精液を処理するための便所です




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79度―――

伊頭遺作は79度もの数、精を紗霧に放った。
時間にして16時間ほど前、竜神社でのことだ。



休憩は無い。
陰茎を膣から抜くことすらしなかった。
処女として。いや、たとえ遊び慣れた女にとってしても、
それは条理を越えた、恐ろしい拷問であろう。

紗霧はその苦痛と恐怖に耐え切った。

肉体の感覚に引きずられぬ鋼の意志。
遺作の言動と表情を読んだ上での演技。
生まれと育ちから来る雌伏の精神。

それらが奇跡的にかみ合った結果、
紗霧は五時間もの連続強姦を経て尚、
紗霧であることを保ちきったのだ。

だがそれは、正気のまま理解していることを意味している。
全ての陵辱と苦痛が記憶として残っている。
狂気にも快楽にも逃げるを良しとしない精神の強さが、
なお一層、紗霧の体験を鮮烈なものとしてしまっている。

狭い社の暗い天井を覚えている。
障子越しの月光を覚えている。
冷たい隙間風を覚えている。
秋の虫の音を覚えている。

魚臭い息を覚えている。
濁った目を覚えている。
乾いた唇を覚えている。
汚い無精髭を覚えている。



舌が皮膚を這いずる感覚を覚えている。
乱暴な指の動きを覚えている。
もっと乱暴な腰の動きを覚えている。
精液の生ぬるさを覚えている。

演技で何を口にしたのか覚えている。
本気でどう感じたのか覚えている。
演技と本気の境界を失った瞬間を覚えている。
思考を停止した契機を覚えている。

  ―――言ってみろ、お前は何だ?
  ―――遺作お兄さんの精液を処理するための便所です

全部、覚えている。
忘れたいのに、覚えている。

トラウマ―――
その陳腐な響きと巷で簡単に使われている事実を、紗霧は嫌う。
だから彼女は遺作との五時間がそれであることは決して認めぬし、
己を成長させる為の良い経験であったなどと嘯くことであろう。

それでも。拭いがたい屈辱の忘れ得ぬ悪夢として。
紗霧の体と心に遺作が刻み込まれていること。
性行為に嫌悪感を持ってしまったこと。

それは、紛れも無い事実である。



 
 
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時間にして十秒も無い。
その十秒で紗霧の様相は劇的に変化した。

顔面は蒼白。体温は低下。
にも関わらず、心拍数は異常に高い。
視界は暗く歪み、平衡感覚も心許ない。
真夏の犬のそれの如く、呼吸は荒い。

(いけない―――
 この弱い自分を、私は知らない。
 この心の作用を、私は抑えられない)

心とは、思考によって制御すべきものだ。
月夜御名紗霧は、そう考え、そう実践してきた。
だから、あの事から能動的に目を逸らした。
だから、あの事を選択して意識の隅に追いやった。
思い返すと心乱れる思い出など、思い出さなければよいだけだ。
それで、克服できた気になっていた。

月夜御名紗霧は。
己の心の働きと、体に与える影響を甘く捉えていた。
己の良識と乙女心を、軽く見積もっていた。
思い出さずとも蘇ってしまう記憶があるなど、知らなかった。


 
「よし。じゃあ好きにしよう」
「だっ、だから好きにしろと……」

紗霧の目の前で行われている乱痴気は、
不快を通り越し、嫌悪を飛び越えて、
もはや恐怖の域まで達してしまっている。

ランスの指が怖い。
ランスの舌が怖い。
智機のわななきが怖い。
智機の喘ぎが怖い。
この匂いが怖い。
この熱気が怖い。

この空間の全てが、怖い。

「だから好きにしているのだ。
 俺様が今イチバンやりたいことは、おまたイジイジだからな!
 いーんぐりもーーんぐりーーー」
「はきゅぅぅん♪」

紗霧は黙して席を立ち、小屋の外へと小走りで向かう。
こみ上げる吐き気を堪えながら。
ランスと智機から、紗霧に制止の声が掛けられることは無かった。
二人にとって紗霧は、もはや意識の外の住人であった故に。



(Cルート)
 
【現在位置:西の小屋内 → 西の小屋外】

【月夜御名紗霧(元36)】
【スタンス:反抗者を増やし主催者へぶつける、計画の完遂、モノの確保、
      状況次第でステルスマーダー化も視野に
      @自分を取り戻す
      A智機との交渉を再開する】
【所持品:スペツナズナイフ、金属バット、レーザーガン、ボウガン、
     スコップ(小)、メス1本、指輪型爆弾×2、小麦粉、
     文房具とノート、白チョーク1箱、謎のペン×8、
     薬品数種類、医療器具(メス・ピンセット)、対人レーダー、解除装置】



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