286 戦慄のパンツバトル! 〜P−3〜

286 戦慄のパンツバトル! 〜P−3〜


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(ルートC:2日目 18:50 D−6 西の森外れ・小屋3)

紗霧との交渉とランスのセクハラとを同時進行させる。
意外な申し出ではあった。
しかし、このような苦し紛れの提案が紗霧から為されたこと自体、
交渉が智機主導となっている証左である。
P−3はそう判断した。
この有利を継続する為には、下らぬと言って提案を却下するより
無頓着に受諾して、相手に余裕を見せた方が効果が高い。
P−3はそう予測した。

P−3は即座にインスタントメッセージ機能(IM)を起動。
判断と予測を、本拠地の茶室に潜む智機に送信。
データは滞りなく到着した。

10秒―――返答無し。
20秒―――返答無し。
30秒―――返答無し。

しかしP−3は動揺しない。返答無き可能性は十分に承知していたが為に。
本機は本機で為すべきタスクの多くがある。
しかも管制室の各種端末からの支援が受けられぬ状況であるならば、
二人三脚の如く、全てを相談して意思決定することは不可能。
判断の多くは、自ら下さねばならない。

故にP−3は返答した。
本機の返答を待たずして。
諾、と。



―――で、現実である。

「じっ…… じゆ、ううっ♪ はぁはぁ、じっ、ゆぅぅうっ!
 をおおっ、あっ! あっあっあーーー、与え、てっ、てぇぇ……
 ひぃふう、ひいふぅ…… 欲しい、欲しいのぉぉぉぉっ!!」

達磨となったP−3の姿が、そこにあった。
四肢パーツがそれぞれ肘、膝から脱落している。
排熱効率を上げて熱暴走を防ぐ観点から言えば、
原始的ではあるものの効率的な手段であった。
これ即ち。
P−3は熱暴走の際まで追い込まれていたのだ。
ランスの執拗なまでのボディチェック――― 愛撫によって。

P−3は知らなかった。
オートマンの肉体が、これほどまでに快楽に弱いことを。
P−3は知らなかった。
鬼作を篭絡した筐体には、皮膚感覚を遮断する特殊なソフトウェアが
インストールされていたことを。

「がはははは! どうだ智機ちゃん、俺様のゴールドフィンガーは?」

ランスの得意げな問いかけに、しかしP−3は答えない。
強がりも冷笑もしない。できない。
P−3に唯一できることは、こみ上げる快楽をひたすら耐えることのみである。

上気した頬、乱れる吐息、切なげな眉根、わななく肢体。
端からから見れば既に堕ちきっているとしか思えぬ様相を呈してはいる。
それでもP−3は見えないところで耐えている。



例えば、性感に埋め尽くされんとするメインメモリに対し、
手動にて3%の未使用領域を確保しつづけている。
例えば、音声発生ユニットへのリモートコントロールアプリケーションを
起動状態のまま保っている。
例えば、リフレッシュレートの間隙を突いては、IMにて
オリジナル智機へメッセージを飛ばしている。

この3%と2つのアプリのみを、彼女は全ての機能を擲って死守している。
なぜか?
それは、彼女が己自身の脳と舌による交渉を諦めた故。
それは、オリジナル智機に遠隔交渉させる以外に方法が見出せなかった故。

「智機ちゃんはカワイイな!」

ドクン、と。
P−3の情動波形が大きく波打った。
それは快楽に流されて昂ぶっている波形とは様相を異にする、
突発的で分析不能な乱れであった。

「戯言を…… 私が可愛いはずなんて、ない……」

P−3は反射的に否定の言葉を呟いた。
そこには計算も奸智も働いていない。

(かわいい……?
 何故、私の情動発生器がこのたった四文字にここまで揺れる?
 分析したい…… 己の未知なる情動と、その根拠を……)

「そうでもないぞ? 俺様、素直に感じる子は大好きだからな!」



P−3は耳を疑った。
キメポーズで。
斜に構えて。
タメてまで。
そんな阿呆なこと言うはずがないのだと。

「はぁ、パンツ遊び……」

P−3は、紗霧がついた深い溜息で、
やはり自分の空耳などでは無かったのだと確信し、
ランスという男の底知れぬ底の浅さを、実感した。

「わははは、それそれ、ぐいぐい」

P−3はランスに下着を摘まれ、細く絞られたそれを押し付けられた。
濡れたショーツの生地が己の最大限に膨らんだ肉芽に擦れた衝撃は凄まじく、
自らのコンデンサが蓄える高圧電流よりもなお激しく鋭い刺激が、
P−3の脳髄に鮮烈に焼き付けられた。

「はぁうっっ…… きゅん、っ……」

P−3にはできなかった。
この感覚を、意味のある言葉で表現することも。
沈黙で以って耐えることも。

ランスは引き絞り押し付けたショーツを、小刻みに左右に震わせている。
どろんと緩やかで濃厚な細波が、着実にP−3を追い詰めてゆく。



(No! 理解不能な!
 理解不能な感覚が、私を究竟まで押し上げようと……っ!)

理解不能といいつつも、P−3は理解していた。
これが、この先にあるのが、エクスタシーであると。

(ああっ…… 私の陰核…… 肉芽…… クリトリス、は、遂に……)

四肢に痙攣の予感が走る。
視界が点滅しだす。
体中のチューブ式筋繊維が解放のための緊張状態に突入する。
そこで……

(……女ちんこ、イかない???)

テンションが、上がり止った。
刺激が、感じられなくなった。
自然と喰いしばっていた歯を緩め、眉根に寄せた皺を解きながら、
P−3はランスの顔を視界に納める。

ランスは笑っていた。
いい笑顔で笑っていた。
それはとても意地悪な笑みであった。
サディズム溢れる笑みであった。

その笑みに、P−3は悟る。
ランスは自分の絶頂をコントロールしているのだと。
人如きに制御をいいようにされている。
それも、プログラムを弄られるのでも、コマンドを打ち込まれるのでもなく、
ありふれた営みの手管如きによって、である。



本来のレプリカ智機に、それが許せるはずが無かった。
オートマンは、人より優れている。
そのプライドが、甘受させぬはずであった。

であるにも関わらず、P−3は憤らぬ。
いいようにされてなお、求めている。

疼いている。
絶頂を間際にして到達できなかった体が。
火照っている。
未だ燃え盛る官能の炎が。

(お豆ちゃん、ヒクヒクッ!!)

この男に、して欲しいのだ。
最後まで、して欲しいのだ。
その欲求を伝達しないことなど、不可能なのだ。

「私の負けだ。もうどうにでもするがいい……」

投げやりな口調のその裏で、P−3は期待に打ち震える。
あの感覚の先を知ることが出来る、その予感が胸に広がってゆく。

(No。きっと、それだけで留まらないだろう。
 一度発情した男は、射精をしたがるものだと聞き及ぶ。
 だとすれば私は…… 私は……
 機械の身でありながらセックスの悦びを知ることが出来るのか!?)

P−3は続く展開に益々身を熱くする。
与えられる全ての快楽を余すところ無く貪る気力に満ちている。



だというのに。
ランスという男は。

「よし。じゃあ好きにしよう」

動かないのである。
P−3の想いを裏切って、待機しているのである。
P−3の羞恥を、情欲を、観察しているのである。

「だっ、だから好きにしろと……」

快楽をエサに、掌の上で転がされている。
P−3にはそれが分かっている。
分かったとてなお、情欲は止まなかった。
とにかく、欲しかった。
この男の与えるものが欲しかった。
どうねだればこの男がしてくれるのか知りたかった。
そのためなら、どんなことでも喜んでしようと思った。

そこに。いまさら。
あれほど待っても来なかった本機からのIMである。

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T−00:初期の任務から状況は変わった。作戦を変更する
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P−3の胸中で悶え狂っていた赤黒い獣が、少しだけ鎮まった。
その、ほんの少しの余裕の中で、P−3は気付いた。
性的欲求が最優先タスクに居座り続けていたことに。



(おかしなものだ……
 これほどまでに激した感情を抱いてなお、
 それが制限されぬとは……)

そう。
度を越した強い感情はオートマンには不要。
その設計思想を体現する情動トランキライズ機能。
今のP−3のような強い性欲は、この機能が強制的に中和し、
制御可能な領域にまで波形を減ずるはずである。

それが、働いていない。
それゆえに、流された。

(……No。 今すべきは原因の追求ではない。
 IMの返信と、オリジナルとの連携だね)

本機からのIMによって冷静さを取り戻しつつあるP−3は、
まずは現状の報告から手短に打鍵する。

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P−03:度重なる皮膚感覚に動作不良を起こしている
P−03:対処法などあればご教示いzさd
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(頂きた……くぅぅっ!?)

P−3のタイプが乱れたのは、ランスが再び蠢きだしたためである。
ただ蠢いたのではない。
舌である。
ランスは、ついにその舌を解禁したのである。



「だから好きにしているのだ。
 俺様が今イチバンやりたいことは、おまたイジイジだからな!
 いーんぐりもーーんぐりーーー」

P−3が一時的の事としても冷静さを取り戻せたのは、
ランスが責めの手を休めていたからに過ぎない。
その責めが以前よりも巧みに卑猥になったならば。

「はきゅぅぅん♪」

P−3はもう、翻弄されるしかないのである。
陥落するしかないのである。

(私っ…… イキたいっっっ!!)

本機からの至上命令も忘れ。
オートマンのプライドも置き去りにして。
P−3の意識とメモリの全てが、快楽に染まった。



(Cルート)

【現在位置:西の小屋内】

【レプリカ智機(P−3)】
【スタンス:快楽を貪る】
【所持品:?】
【備考:快楽により制御不能】



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