265 だって、あいつは王子様。だから、あたしはお姫様。そんなふたりのおはなしだから、 最後はきっとハッピーエンド。そうしていつまでも幸せに暮らしましたとさ。 めでたしめでたし。 ……なーんて夢、見てたんだ。あの時までは、ね。

265 だって、あいつは王子様。だから、あたしはお姫様。そんなふたりのおはなしだから、 最後はきっとハッピーエンド。そうしていつまでも幸せに暮らしましたとさ。 めでたしめでたし。 ……なーんて夢、見てたんだ。あの時までは、ね。


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(二日目 PM6:21 F−5地点 東の森・双葉の道)

気怠い……
眠い……
頭が全然働かない……

炎の中に潜めば熱気が倦怠感を覚ましてくれるかと思ったけど、
そんなに上手くはいかないみたい……
そりゃそうよね。
陰陽術の使い過ぎであたしの精神力はすっからかん。
逆さに振っても埃も出ない。
気を失ってない今の状況の方がどうかしてる。

《どうでもいいや》
《もう寝ちゃお?》

あたしの心の中でリフレインする誘惑の声。
今眠ったらきっと目覚めることなく焼け死ねる。
死ぬことは怖くない。
てゆーか死にたい。
むしろ死ぬべき。
心の底からそう思ってる。

でも、あたしがここで全てを投げ出したら、星川の無念の行き所はどうなるの?
あたしにしかいないんだ。あいつのことを想っている人間は。
あたしにしかできないんだ。あいつの仇を討つことは。

眠る前に、気絶する前に、死ぬ前に。それだけは果たさなくちゃダメだ。
迷いと躊躇だらけの半端なあたしだけど、あいつへの想いだけは貫き通したいもん。


だから、折れるな。
負けるな、あたし。
誘惑なんかに屈するな。
思い出せ。
あの病室を。

思い出せ。
思い出せ。
丁寧に丹念に思い出せ。
一挙一動逃さず思い出せ。
希望が絶望に塗り変わった出来事を。

思い出せ。
思い出せ。
胸を詰まらせながら思い出せ。
慟哭を飲み込んで思い出せ。
星川の死の瞬間を。

心の痛みで、目を覚ませ。



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(一日目 AM11:35 E−6地点 病院)

「その『目貫』という能力で君は双葉殿の首輪を破壊したというわけか…」

エーリヒさんの言葉に感嘆のため息を漏らす2人の女の子。
ちっちゃくて肌の白い巫女ちゃん・神楽と、
柔らかそうで幸薄そうなお姉さん・遙。
2人はまるで英雄でも見るみたいな眼差しで、星川を見つめてる。
ふふん。
あたしの彼氏は凄いでしょ?
だって、あいつは王子様。あたしの大事な王子様。
サイコーなヤツに決まってんじゃない!

「では…では、私たちにお力添えいただけませんでしょうか?」
「もちろん♪」

でもね。
あいつったらあたしの熱い視線に気づきもしないで、
軽薄なノリで神楽ちゃんの手を握ったり、
爽やかな笑顔を遙さんに向けたりするんだ。

「な〜に鼻の下伸ばしてんのよ」
「…やきもちはみっともないよ、双葉ちゃん?」
「誰がっ!」

どうしてあいつってばあたしにキ…… キス…… したくせに、
他の女の子にええカッコしたり、気のあるそぶりを見せるわけ?
好きなコがいるならそのコのことしか目に入らないもんじゃないの?
少なくともあたしは…… そうだよ?


「取り込んでいるところ申し訳ないが善は急げという、
 早速だが星川君、まずは私からお願いできるかな?」
「OK」

張りのある渋い声が星川に目貫の使用を促した。
星川がわたしの手からアイスピックを持ってゆく。
手を伸ばしたあいつの唇が、こう動いてた。

  ご め ん ね ♪

そして、軽くウインク。あたしにだけ伝わるように。
ちっちゃな2人だけの秘密。
やだ、もう。ドキドキするじゃない。
今のあたしの顔、絶対真っ赤だ。
こんなに照れた顔、みんなに見せらんないよ。

「少し顎をあげてもらえますか?…OK、行きますよ」

でも、星川の声が聞こえてくると目で追っちゃうの。
そしたらさ、いつものチャラい態度じゃなくて、真剣な声と顔つきをしてたんだ。
あたしの胸がきゅんってなる。
―――カッコいい。
あたしって意地っ張りだし、素直じゃないし、あいつの前じゃ絶対言えないけどね。
心の中ではずっと思ってるんだよ?
出会ったときからずっと、ね。
あんたは王子様。
大事な大事なあたしの王子様。


だから絶対上手くいく。
エーリヒさんや魔窟堂さんや他のみんなの首輪を解除して、
力を合わせて主催者たちをやっつけて、それぞれの故郷に帰るんだ。

だって、あいつは王子様。だから、あたしはお姫様。
そんなふたりのおはなしだから、最後はきっとハッピーエンド。
そうしていつまでも幸せに暮らしましたとさ。めで―――

   パ ァ ン ! ! !

―――たし、めでたし。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

って、思ってたところだったのに。

「…ぁ………」

悪い予感なんて全然なかったのに。

「どうして……」

どうしてエーリヒさんが血まみれで倒れちゃったの?
どうして遙さんまで倒れたの?
どうして神楽ちゃんが悲痛な顔をしてるの?
どうして…… 星川が血に染まってるの……
だって、あいつは王子様だよ?
こんなことになるわけないじゃない?
これじゃまるで、星川がエーリヒさんを殺しちゃったみたいじゃない!


時間が止まってた。
動いているのはエーリヒさんの首から溢れ出す鮮血だけ。

「待ってください、この人は……」

時間を動かしたのは神楽ちゃんの切羽詰った声。
待ってって…… 誰に向かって?
声のするほうに目をやる。

「チッ!」

部屋に入ってきたのは、天パでセーラー服の女のコ。
神楽ちゃんとそのコが重なって。
神楽ちゃんが倒れて。
そのコは倒れる神楽ちゃんを振り返りもしないで。
足を止めなくて。
……星川に向かってる?

あれ? 今、キラッて。
あの子の手の中で光ったのは……

星川っ、後ろに女のコ!
女の子があんたの背中にキラって光る腕を伸ばしてる!

「……まずは、一人」


まずはひとり?
何が? 何を? 神楽ちゃんと合わせて2人じゃないの?
ちょ、ちょっと待ってよ。思考が追いつかないから。
てゆーか星川、なにひっくり返ってんの?
小柄なコに背中を軽く叩かれたくらいでだらしなくない?

「え…?」

あのコの手の光るモノが今は光ってない。
神楽ちゃんとぶつかった後で光ってたアレが、星川とぶつかったら光らなくなった。
赤く濡れてる。
どういうこと? あの赤いのってエーリヒさんの血と同じ色じゃない?
それじゃあ……

「星川ッ!?」

うそ…… やだ…… だって、あいつは王子様でしょ?
こんなあっけなく…… ありえないでしょ!!
ねえ、めでたしめでたしは!? いつまでも幸せに暮らしましたは!?

あのコ、爬虫類みたいな目でこっち見て……
来た!! あたしだ!! あたしも!?

  敵……        星川……  
                  血……   ナイフ……
    神楽……        老人の亡骸…… 
ゲーム……      ゲーム……
     ゲーム……

              ……………………殺人ゲーム!!



   =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-= ・ =-=-=-=-=   



何度思い出しても色あせない。
何度思い出しても吐き気がこみ上げる。
何度思い出しても…… あの女が許せない。

見開いた視界が赤く染まってた。
炎の赤じゃない。鮮血の赤に。あの病室の赤に。

―――来た。
辛い思い出から、ぽたりぽたりと滴り落ちて来た。
ドス黒い殺意の凝縮液が。
半紙に垂らした墨汁が染み込んで広がるように、
あたしの意識に殺意が染み込んで広がってゆく。
殺意はじわじわと染め上げる。
眠気を、疲労を、倦怠感を、黒く、黒く、ひたすら黒く。

うん。
もう大丈夫。もう目は醒めた。
恨みは最高の気付け薬。
諦めへと誘う声は聞こえない。

星川、ゴメン。もうちょっとだけ待っててね。
あんたの無念は、あたしが絶対晴らしてあげるから。



【現在位置:F−5地点 東の森・双葉の道】

【朽木双葉(16)】
【スタンス:火災による無理心中遂行】
【所持品:呪符×7、薬草多数、自家製解毒剤×1、メス×1、
     ベレッタM92F(装填数15+1×3)、カード型爆弾×1、閃光弾×1】
【備考:疲労(大)、式神たち 双葉を保護。持続時間(耐火)=8分程度】



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