198 備えあれば・・・

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(二日目 PM1:15 東の森中央部)

楡の木広場を目指しながら、あたしは手に持っている呪符を見つめる。
呪を唱え、印を結ぶ。そのタイムラグを少しでも縮めたいから
朝に一時間以上かけて発動直前の術の力を込めた呪符を数十枚分作った。
主な術は分身と武器化。式神作成の応用であたしの幻像を生み出す呪符。
数秒間、植物を硬質化させる。それをあたしが操る。
銃相手にためらわずに向かってきたアイツに確実に勝つ為に!
すべての呪符を確認し終わったあたしはメモを読んでる星川の方を向く。
「そっちも終ったー?」
星川はメモを閉じて、あいずちをうってあたしにメモを見せる。
(現在確認できてる参加者で名前が分からないのは魔窟堂さんと
一緒に居た赤毛の女の子と黒髪ポニーテールの女の子。
ランスと一緒に居た水色ショートの女の子とタコみたいな人と例の女の子。
名前がわかる人達を入れて、これで十人だよ)と書かれていた。
あたしは右手をアゴに当てて考える。
さっきの放送での死亡者名は全部男の名前だった。
ってことはあのバカ男と一緒にいたあのタコ親父はもういない?
いないとしてあたしの知らない参加者がまだいる?
「………」
あたしの力を最大限に発揮できる楡の木広場周辺。
そこにいれば襲撃者を片っ端から蹴散らせる。けれど・・・


それではさっきまでと同じで運営側の奴らの思うツボ。
さっさとアイツとケリをつけて、運営側の奴らと戦う人の手助けをしたい。
それにはアイツを早く見つけないと。
今、式神放っても森の外の状況を調べるのは時間がかかる。
魔窟堂さんとバカ男ランス。手を組む事はもうできない。
まだ出会ってない参加者がいれば手を組む事が……事が…
「……」
協力してくれるとは限らないか。
「双葉ちゃん、参加者の事で気になる事が……」
あたしは右手の中指を曲げて「喋るな」のサインを出す。
星川もそれに気づき慌ててメモをする。
(一つ前の定時放送でランスと一緒にいたアリスって子が
死んじゃった事なんだけど)
角の生えた赤毛のロングの女の子ね。あたしが襲撃した後、
逃げ切られたと思ったんだけど。どうして…また。
(どういうこと?)とメモする。
(捜索もいいけど、他の参加者の襲撃にも気をつけたほうが)
(そうね。だからこそ、先の楡の木広場に行くんじゃない)
(そうじゃなくて。双葉ちゃんがアイツと戦う時の事だよ)
(アイツと戦う時の事?)
(双葉ちゃん達が戦っている所を、襲ってくるのがいるかもしれないって事)
メモを受け渡しながら文を書く。そんなやりとりの中、
あたしは軽いショックを受けた。

確かに・・・アイツに勝てても生き残れなかったら何の意味もない。
無駄死に、それは絶対に嫌だ。持ち物を再び確認する。
「………」
呪符と薬草は持てるだけ持った。他にあたしが取れる対策は?
今は森の中からは出たくない。だから道具は探せない。
……せめて首輪を外せたら。あたしは首輪に手を触れる。
ひんやりとした感触。あたし達の生き死にと場所が運営側に分かる首輪。
多分、盗聴もされてる。まだ仕掛けがあるかも?
「………」
「…………」
沈黙が続く。他に、他に、他にやる事は……
あたしは考えてみる。おとといだったっけ、
鐘ノ音学園に向かうバスに乗ってた時。
そう、みんながボーイフレンドのことで盛り上がってたのを、
あたしが呆れて聞いてたところまでは覚えている。
そこで記憶が途絶えたんだ。
で、目覚めたらいつのまにか首輪をはめられていた。
さっきの『声』を出した奴ならできるんだろうけど、
首輪をはめたのは運営側の奴らに違いない。何をやった。
「…………………………!」
そうか、あたし達が眠っている間に薬を!
「…………………」
しばし黙っているあたし。
「双葉ちゃん?」
沈黙に耐えられず話し掛けてきた星川を横目で見て、あたしは考える。
二分位経ってから、あたしは黙って薬草を取り出した。

それぞれ違う種類の薬草7つを選ぶ。
それを千切り、指で潰し始める。
「ふたばちゃん?」
あたしは思わず半眼で喋るなのサインを出す。黙る星川。
右手の手のひらに粉となった薬草を今度は手持ちの呪符で包む。
星川が何をしているのかを気づき、納得した顔をする。
自家製の解毒剤……
事前に薬を飲まされていて、痛み出してるならこれで解毒できるハズ。
少し前にお父様に教えてもらった調合。ダメモトでもやってみる価値はある。
問題は…問題は…青汁よりずっと不味いって言ってたことなんだよね…。
二人分できた。一つをつまみ言霊を吹き込む。
そして飲もうとするあたし。手が震える。脚も震える。汗がにじむ。
動悸が早まる。躊躇するあたし。
「・・・・・・」
背に腹は変えられない。若葉は平気で飲んでいた!口に放り込むあたし。
ん?若葉?と気が付いた時にはもう手遅れ。
あたしはあまりの不味さに悶絶した。




数分の後、あたしは星川に介抱してもらっていた。
不味い、不味い、不味い、不味いと心中で何度も悪態をつくあたし。
確実にトラウマになりそうな苦味に悩まされるあたし。
若葉、なんで飲んでたんだろうとぼんやりと考える一方で
襲撃者が来なくて本当に良かったと心底喜ぶあたしたちだった。

なんとか立ち上がり、あたしは星川に残った解毒剤を見せる。
「………」
首を横に振る星川。あたしは二人分作ったのになと心中で呟く。
けど効き目があるかは分からないかと納得する。
残った解毒剤をしまいこむ。
正直、どれくらいの効き目なのかは疑問。
飲んだ甲斐はあって欲しい。後はどうやってアイツを見つけるかを
考えながらあたし達は目的地についた。                        



【朽木双葉と式神星川】
【所持武器:呪符多数、薬草多数、自家製解毒剤1人分】
【現在位置:楡の木広場】
【スタンス:アインの捜索と決着
      参加側・運営側にはなるべく干渉せず
      首輪の解明】
【能力制限:術の連続使用は肉体にダメージ】
【備考:双葉は能力制限の原因は首輪だと考えている
 朽木双葉、自家製解毒剤服用済み
 解毒剤の効力及び、効果時間は現時点では不明】




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