A-05 237b 復讐者は傀儡と共に
A−05 237b 復讐者は傀儡と共に
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……それは、一言で言えば「人形」だった。
身の丈六尺程度の人の形を持った、真っ白なのっぺりとした六体の怪物。
彼らはアインを包囲するかのように降り立ち、そのまま円陣を崩さずに沈黙する。
「な、何これ……?」
「………」
その包囲の中に共に置かれる形になったしおりも、その異様な光景に動けずにいた。
同様にアインもしおりを手にかけようとした動きを解き、様子を伺う。
「(……カオス、何か分かる?)」
「(フン……こりゃ『使い魔』みたいなモンじゃな。魔法使いとかの類が
自分の手を汚さんでいいように操る手下って所じゃ)」
「(強さは?)」
「(普通の人間が相手なら強敵じゃろうが……ま、ワシなら楽勝よ。一体一秒、六体で六秒……どうする?)」
アインの問いにカオスは軽く答える。
ぱか。
その時、人形の頭に当たる部分に空洞が生まれた。
「「「「「「……会いたかったよ、本当に」」」」」」
六体の口が同時に動き、全ての方向から響く声。
その口調はあくまで静かだが、その下の激情ははっきりと感じられる。
「朽木双葉ね」
それに対し、あくまで無感情に答えるアイン。
『アンタは星川を殺した』
「………」
『アイツは、ノリは軽いし、軟派なヤツだったけど……このゲームを
ぶっ壊そうと真剣に考えて、動いてた』
「………」
『それを、アンタは何も聞かずに殺した!』
次第に感情が溢れてくる。
『……だから、アタシはアンタを殺す。ゲームをぶっ壊すのはそれからよ』
「………だから?」
アインは無造作に答えた。
「ッ!」
「彼がエーリヒを殺したのは事実よ。それもまた、動かない事だわ」
怒りのあまり息を飲む気配。対してアインは全く表情を崩さない。
数秒の沈黙、それを破ったのは震える双葉の声だった。
『……安心したよ、これで本当に躊躇無くアンタを殺せる!』
「貴方では私は倒せないわ」
『ハッ、舐めてくれんじゃないさ!』
挑発的とも言えるアインの言葉に、双葉は激昂して答えた。
同時に周囲の式神がぐにゃりと歪む。のっぺりとした頭部に凹凸が生まれ、
六尺あった丈は急速に縮まり、手足がほそくなってゆく。
つるんとした肌は次第に服となり、皮膚となり、色を纏う。
そして怪物であった姿は人影となり、人影は……
「!?」
初めてアインの顔に動揺が浮かぶ。
桃色の髪、穏やかな表情。細い手足に透き通るような肌。
―――式神たちは、涼宮遙の姿に変貌していた。
『あの男から聞いたよ、アンタの事、色々とね……』
「……それででた行動がこれ?」
『今の表情だけで充分答えは出たよ。効果ありってね』
「……………」
アインが腰を落とし、足に力を込める。
『さあ、それじゃ……!』
『『『『『いきますね、アインさん』』』』』
五人の遙は同時に口を開き、アインに飛びかかった。
ほぼ同じタイミングで地面を蹴り、真正面に突っ込むアイン。
『!?』
そのまま正面にいた遙の横を高速ですり抜け、振り向く事無く森の茂みへと飛び込む。
『アハハ♥』
『逃がしませんよ!』
『大人しくしてください!』
『アインさんっ!』
遙の姿の式神……コピー遙とでも言うべきか。彼女達も口々に言葉を発しつつ
アインの背を追う。
そして、後に残されたのは……
「……ちょ、ちょっと待って……!」
突然周囲に誰もいなくなり、しおりははたと我に返った。
慌てて更にその後を追おうとする。しかし、
『邪魔はさせないよ』
「ッ!」
背後の声に、しおりはとっさに振り向いた。
果たして、まだそこに一体白い影が立っていた。
先ほどアインを追ったのが五体……その残り一体である。
『アイツを殺すのはアタシなんだ、アンタにはこいつの相手をしてもらう』
その言葉を合図に、また式神がぐにゃりと歪み―――
「マ……!?」
式神は、アズライトの姿となっていた。
藪を越え、枝をくぐり、木陰から木陰へと移る。
「(全く、つくづくお嬢ちゃんは不器用じゃのう)」
動きを止める事無く走るアインの手の中で、カオスは毒づいた。
「(何がいいたいの?)」
「(さっきのアレ、わざとあの子の怒りを煽ったじゃろ?)」
「(……………)」
アインは答えない。
「(お嬢ちゃん、わざと『憎い仇』を演じようとしとる)」
「(……………)」
「(安っぽい罪悪感は逆効果じゃぞ?)」
「(そんなつもりは無……)フッ!」
カオスに反論しようとした途中でアインは身体を捻り横に飛んだ。
瞬間、アインが一秒後にいたであろう位置を横切る遙の爪。
良く見れば、その指先は鉤爪のように鋭く尖っている。
『アインさん』
『アインさん♪』
『アインさ〜ん』
更に次々とアインの周囲に降り立つコピー遙。
その中の一人がトコトコとアインの前に進み出る。
『アインさん……お願い』
アインは動かない。爪を振り上げる遙。
『ここで』
動かない。振り上げが頂点に達する。
『死んで』
降ろされる爪。
『下さ―――』
動かな―――
『ガッ!?』
獣のような叫び。
「………」
アインの手の先、無造作に上げられたカオスの切っ先が遙の胸を貫いていた。
「私の腕の中にあの時の感触がある限り……どこまで精工でも貴方達は偽者よ」
静かに宣告し、剣を引き抜くアイン。
『ア……!』
遙は苦悶の声を上げるが、それが止む前にその全身は青い炎に包まれ、燃え尽きる。
使役者から授かった命を失った式神の最後の姿である。
ざわっ
残り四体の遙の気配が変わる。全員が爪を構え、威嚇するように包囲を狭めようとする。
が、アインの速度はその反応を遥かに上回っていた。
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236 戦え! |
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