009 お姉ちゃんといっしょ
009 お姉ちゃんといっしょ
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(一日目 2:30)
上に体操服、下にブルマという涼しい格好の常葉愛は、左右にフラフラ揺れながら、大通りを歩いていた。
左右にフラフラ揺れているのは、身長にして30センチは低い双子の少女に両腕を捕まれているから。
そして身を隠しやすい森ではなく捕捉されやすい大通りを歩いているのは、この栗色の髪の、愛くるしい双子の片割れが森の中に住む毛虫や蜘蛛を物凄く嫌がったからだった。
生き残ることに対して真面目な奴の態度じゃないよね。
愛は嘆息して、3人分のリュックをかつぎ直す。こんな重いものを彼女たちに持たせるわけにはいかないし、かといって捨てていくわけにはいかない。
正直なところ、自分ひとりが生き残ることにさして興味はなかった。
だけど、こんな無垢な少女たちが目の前で殺されるのを黙って見ていられない程度には、熱い正義感を持っていた。
「ねえ、ちょっと。逃げたりしないからさ、もうちょい離れてくれないかな」
二人の少女が、あまりにべったりとくっついてくるのに閉口して、愛は足を止める。
「そんなぁ……。お姉ちゃん、私たちのこと嫌いになりました?」
愛の右腕をぎゅっと握って離さない、姉のしおりが寂しそうにうなだれる。
「わ、私は腕を離しても平気だよ。でも、しおりだけお姉ちゃんと一緒は、ずるい」
愛の左腕にしがみついている、妹のさおりが口を尖らせた。
愛は、はぁ、と溜息をついて、天を仰ぐ。
星が綺麗だなぁ。
思わず現実逃避しそうになる。
でも、まあ。
少なくとも、こうして周囲が真っ暗なうちは、道沿いが一番安全かもしれない。
確かに月の光でこちらの位置は丸見えだけど、それは逆に、
接近してくる者がいれば、一発で発見できるということだ。
愛は、自分のつけている、神のブルマのことを考えた。
このブルマの力があれば、不意打ちさえなければ、この2人を守ることはできるだろう。
であれば、木陰からいつ襲われてもおかしくない森の中より、
開けた場所の方が安全なのは明白である。
長射程のライフルを持った者がいたとて、この暗闇の中では狙撃もできまい。
幸いにして、双子の袋から出て来たものは、暗視スコープと連射式のモデルガンだった。
出発前の説明によれば、同じ武器は2つ存在しないらしい。
ここに暗視スコープがあるということは、
彼女たちは夜の情報戦で大きなイニチアチブを取ったことになる。
後は、朝になる前に安全に休める場所を探そう。
そう、当座の予定をまとめて、愛は、彼女たちの唯一の護身用武器である
金属バットを握り締めた。
建物から建物へ、愛たちから距離を置いて、3つの人影が移動していた。
遺作、臭作、鬼作の3兄弟である。
体操服にブルマの少女と、まったく無害と思われる幼女2人。
脅迫、監禁、だまし打ちといった弱者を徹底的にいたぶる行為に喜悦を覚える彼らにとって、
今尾行している3人は、この上ない獲物に思えた。
見たところ、武器は体操服の少女の金属バットだけ。一方彼らは、
遺作がコンバットナイフ、臭作がワイヤーロープ、鬼作が警棒と、
まずまずの装備を手に入れている。
何より彼らは男で、尾行相手の少女3人は見るからに無防備だった。
長男の遺作の合図で、鬼作と臭作が彼女たちの正面にまわりこむ。
大人2人の登場に足を止める少女たち。そこに浮かぶ恐怖の表情を想像しながら、
遺作は彼女たちの後ろにまわりこんだ。
「何よ、あんたたち」
常葉愛は、おびえる双子を道路の脇に避難させ、
袋を肩から下ろすと金属バットを構えた。
前に2人、後ろに1人。自分たちに逃げ道はないが、
相手はどいつも飛び道具を持っていないと思われる。
兄弟と思わしき男たちは、各々下卑た表情を浮かべながら、
じりじりと近寄ってきた。
「参考までに聞くけど、あんたたちがしたいことをいってみなさい」
「はぁ? こいつ、頭がオカシイのか。男と女がヤることといったら、
1つしかねぇだろ」
「つーまり! あたしとエッチなことしたいわけね!」
ビシっと人差し指を真っ直ぐに伸ばして、指摘する。
「お前だけじゃねぇ。そこで震えている、2人のガキもだ」
「ふん、この常葉愛様を相手に、いい度胸じゃない。
このナイスバディだけじゃ飽き足らず、発育不全のお子様にまで手を出そうたぁふてぇ野郎だ」
「お姉ちゃん、ひどいです」
「発育不全じゃないもん。発展途上なんだもん」
啖呵を切る愛に、味方側からブーイングが上がる。遺作たちがつかの間呆然とした隙に、
常葉愛は自分のブルマの中に手を突っ込んだ。
「あん?」
「こいつ、自分からオナニーしてやがる」
「誘ってるのか?」
もはや唖然とする男たちと双子を尻目に、愛は一心不乱にブルマを濡らす。
そして。
ブルマに充分な湿度が与えられたとき。
神のブルマは、その真の力を目覚めさせた。
「あんたたち、身を伏せて頭を抱えてな!」
「え?」
「は、はい!」
風が、巻き上がるようにしてブルマの少女を包む。
常葉愛のブルマが、金色に光った。
「うおおおっ」
「こ、こりゃ、なんじゃ――!!」
「死ね、この女の敵、痴漢ども! ブルマー衝撃波!!」
次の瞬間、音速の衝撃波が、周囲の男たちを吹き飛ばした。
「い、今のは……」
痛む身体に鞭打ち、遺作は何とか立ち上がった。
月の光の背景にして立つ、ブルマの少女の鋭い眼光が彼を射抜く。
彼はひっ、と悲鳴を上げると、武器のナイフを拾って一目散に逃げ出した。
もうこれ以上、一秒でも彼女の前にいたくなかった。
3人の男たちが逃げたのを確認して、常葉愛は緊張を解いた。
瞬間、身体中に鈍い痛みを感じて、呻き声を上げて地面に倒れる。
「お姉ちゃん!」
「だ、大丈夫?」
慌てて双子が駆け寄り、愛を助け起こした。
「だ、大丈夫だよ……これ、くらい………」
そういって笑うものの、それが強がりにすぎないことは双子にもわかった。
「ご、ごめんね……あいつら、とどめ刺しておかなきゃいけないのに……」
「いいよ、もういいよ、お姉ちゃん! とにかく、そこの小屋で休もう!」
まだ何かしゃべろうとする愛を遮って、双子は、泣きながら彼女の身体を引っ張る。
「うんしょ、うんしょ……」
「ごめん…ね……。あたし、本当は身体が……もう駄目なんだ……」
「さおり、もう少しだよ。うんしょ、うんしょ」
「どんなにがんばっても、20歳まで生きられないっていわれてるんだ……。
全身、もうボロボロなんだって……」
「しおり、小屋の扉開けておいて。うん、お姉ちゃんを支えてるから」
「ごめんね、ごめんねぇ……。思ったより…キツいなぁ……。
ひょっとしたら……あんたたち、最後まで守ること……できない…かも……」
「うんしょ、うんしょ、うんしょ。うん、このベッドの上に乗せよう」
「でも……がんばるからね……。はは、あんたたちに支えられているくせに、
エラそうなこといってるけど……。最後まで、あんたたちの為に戦うから……だから、そんな哀しい顔するなよ……」
双子の助けを得て何とかベッドの上に這い上がった愛は、
涙を瞳いっぱいに溜めた双子を抱きしめると、そのまま奈落に落ちるがごとく、意識を失った。
【グループ:常葉愛、しおり、さおり】
【所持武器:金属バット(常葉愛)、暗視スコープ(さおり)、連射式モデルガン(しおり)】
【現在位置:スタート地点から西に3km程度の道沿いの小屋】
【スタンス:双子を守る】
【能力制限:不治の病(常葉愛)】
【グループ:遺作、臭作、鬼作】
【所持武器:コンバットナイフ(遺作)、ワイヤーロープ(臭作)、警棒(鬼作)】
【現在位置:スタート地点から西に3km程度の道沿いから、どこかに逃走】
【スタンス:弱い女性を狩る】