053 パニックキャビン '02

053 パニックキャビン '02


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(7:30)

結局、クレアは朝食に毒を混ぜなかった。
情け心が出たからというわけではない。
  クレア:(愛は、私を疑っています。まずは彼女の信頼を得ないと、私の身が危ないですから)
その判断に基づいてのこと。
事実、朝食前の愛の態度は、以下のようなものだった。

  しおり&さおり:いただきま〜〜〜す。
  愛:あー、ちょっと待った、アンタ達。
    作ってくれた人差し置いて、先に食べちゃうのはレディとしていかがなもんかね?
  クレア:あら、そんなに気を遣って頂かなくても……
  愛:気を遣うとかじゃなくて、礼儀の問題かな。
    アタシ達の国ではまず、作った人が食べることになってる。
  さおり:え〜〜、そうなんだ。しおりお姉ちゃん、知ってた?
  しおり:知らなかったけど、言われてみればそんな気もする。
  クレア:そうですか……でしたら、お先に頂きますわ。

……食事の後、4人は思い思いに過ごしている。
クレアは、台所まわりの掃除。
愛はベッドに横たわり、なにやら考え事。
しおりとさおりは、暗視スコープを覗き込んではわいわいと。
一見、殺人ゲームとは縁遠い平和な日常のひとコマ風味だが、
愛とクレアは、双子の頭越しに、お互いの行動に意識を集中してる。

そんな、静かな緊張の中。
こんこんこん。
小屋の扉がノックされた。


  ??:ごめんくださ〜い。
それは、場違いなほど暢気な口調だった。
  しおり:はーーーい、今開け
  愛:待て。
飛び出そうとするしおりを押さえ、愛はクレアに目配せする。
  愛:用心に越したことはないやね。様子を見てもらえる?
  クレア:わかりました。
クレアがのぞき穴から様子を伺うと、にこやかに微笑んだメイド服の少女が目に入った。
  なみ:ごめんくださ〜い。
……だが、その青と白のメイド服は、血の赤と泥の茶に彩られてる。
ブゥゥゥゥゥ……
気付くと、クレアの手に伝わる、微妙な振動。
  クレア:(地震……かしら?)
次の瞬間。

ギュイイイイイイイン!!

扉を突き破ったチェーンソーが、クレアのすぐ横で、唸りを上げていた。
舞い散るおがくず。
左頬から迸る鮮血。
  クレア:きゃあああああ!!
  なみ:あらぁ、狙いが外れてしまいましたね。扉の抵抗値の予測ミスでしょうか。
腰が抜けたクレアは、その場にへなへなと座り込む。
  愛:アホッ!なにやってるッ!!
愛がクレアを引っ張り倒す。

ギュイイイイイイイン!!

コンマ2秒前までクレアが座り込んでいた位置に、2撃目のチェーンソーが差し込まれた。


ギュギュギュギュイィイイイ……

息をのむ2人の目の前で、チェーンソーはゆっくりと引っ込んだ。
それから、一撃目のチェーンソーが開けた穴に左手が突っ込まれる。

ズリズリ……

ドアのノブを探るようにその手が動いて―――鍵を開けようとしている。
  愛:させないッ!
ガイン!!
愛はその手に向けて、咄嗟に金属バットを振り下ろした。
  愛:(つっ!? この固さ……ロボットか!?)

  愛:しおり、さおり!! 雨戸全部下ろせ!!
  しおり:……。
  愛:返事!!
  さおり:は、はい、お姉ちゃん!!
  愛:そこのメイド、腰抜かしてる場合か!? 食卓!椅子!ベッド!!
    裏口にバリケードだ!!
  クレア:わかりました……

愛はてきぱきと指示しながらも、鍵を開けようと這いずるなみの手を、金属バットで叩き続ける。
その手は叩かれる度にドアノブから遠のくものの、あまりダメージを受けている様子はない。
むしろ、金属で金属を思い切り叩くその衝撃に、愛の腕が痺れかけていた。

クレアは、重々しいベッドを裏口まで引きずる。
テーブルを立てかける。
椅子を放り投げる。
どの動作も、彼女の腕力を超えている。
火事場だからこその動きだ。

幼い双子は、健気に震えをこらえ、アルミシャッターを下ろしている。
キッチン、バス、リビング。
ガラガラガラ。
丸太用のチェーンソーでそれを切り裂くのは不可能だろう。

  さおり:お姉ちゃん、雨戸全部閉めたよ!!
  愛:よくやった。あとはその辺の隅っこでじっとしてな。
  しおり:うん……。


防衛準備が一通り整った頃、なぜか、なみの左手が扉の亀裂から引き抜かれた。
…………1分。
…………2分。
…………
静寂が3分目に突入する。

  愛:アンタにこれを渡しとく。動きがあったら、とにかく叩け。
  クレア:愛さんは?
  愛:……蒸らす。
愛はそう告げると、右手を紺色のブルマーの前に手を突っ込んだ。
左手は乳房に添えられる。
  愛:あ、……はぁ、くぅん……
  クレア:な、なにを!?
突然のオナニーショーに目を白黒させるクレア。
  愛:錯乱してるわけじゃない。
    因果なもんでね……こんな恥ずかしい行為が、アタシの戦い方なんだ。
愛の手の動きは、次第に大胆になっていく。
  愛:アタシのことは気にするな。意識は扉に集中してろ。
  クレア:もちろん、ずっと見ていますが…… 動きがありません。
…………さらに1分。
…………さらに2分。
…………
静寂は、2度目の3分目に突入する。

  しおり:行った、の?
  クレア:……そのようですね。
  さおり:……よかったぁ。
3人の緊張が、少しだけ緩んだとき。
  愛:(そろそろブルマの中も蒸れてきたが…… 追撃するか?)
愛が次の行動に思いを巡らせたとき。

コツ。

東側の壁に、何かが当たる音がした。


轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟轟!!!!!!!
なみが使用した最後の手榴弾が、炸裂する。

耳を劈く、爆音。

  クレア:な!?

衝撃。
閃光。
赤々と燃える空気。

  さおり:痛!!

煙。
ストップモーションで崩れゆく壁。
耳鳴り。

  愛:爆弾かッ!?

悲鳴。
落ちてくる天井。
世界は色を失い。

  しおり:さおりちゃん!!

――――――――――――――――――ホワイトアウト。



【現在位置:小屋跡】

【なみ】
【所持武器:チェーンソー】




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さおり
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055 ガイガー・ガイガー・ガイガー