028 遭遇戦
028 遭遇戦
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「糞、失敗だったか!!」
階段を駆け下りながら琢磨呂は毒づく。
脱出の時間は稼げたもののその後は女性の悲鳴が聞こえた後は銃声も怒号も
聞こえてはこない。
代わりに歌声ともなんとも言えないダミ声が聞こえてくるだけである。
揃いに揃って音痴コーラスか、おめでてーな。
そんなことを考えながらも出口に向かって突っ走る。
琢摩呂のアイデアは間違った物ではなかったが
いかんせん相手が悪かったとしか良いようがない。
あの場所にいた4人の内3人は物事に対して冷静な対処が出来る人間であったし
更に二人は琢摩呂以上の人生経験を積んでいた。
「まあいい、今はこの場を離れることが出来れば……うわッ!!」
どんっ
正面にふりむいた瞬間琢摩呂は何かとぶつかり尻餅をついた。
しかし、それでも冷静さをすぐに取り戻したのは彼が優秀な探偵故か。
ダン!ダン!
彼はそのまま正面の何かに向けて立て続けに引き金を引いた
(一体今のは何だったの!!)
シャロンは茂みに身を隠し相手の出方をうかがう。
少し前に城塞のような建造物(彼女は病院という物を知らなかった)の中から
小さな爆発音らしき音が聞こえてきたので侵入しようとしたときいきなり
建物から飛び出してきた男と鉢合わせになったのだ。
彼女の方は幸い尻餅をつくこともなく体勢を立て直していた。
だが、男の正体を確認しようとした時、男が手に持っていた筒からあの音とともに
火花と何かが飛び出してきたのだ。
「あれが何かは分からないけど飛び道具というのは確かみたいね」
彼女は支給品の日本刀でマントを切り取って作った包帯を巻きながら考える。
先の銃撃で彼女は左の太股に弾丸を受けていた。
直撃ではないが弾丸が肉をえぐり取ったため傷が痛む。
それでも彼女は闇の一族の戦士として光の一族との戦いの最前線にいた
歴戦の勇者とも言うべき存在である。
すぐに現状を把握し最善の戦闘方法を割り出す。
これ以上の距離をとるのは不利。
相手の飛び道具を避けて懐に飛び込むしかない。
それが彼女の出した結論だった。
(心許ない。 残りは2発か)
銃を構え直し琢摩呂もまた茂みに飛び込んだ相手の出方をうかがっていた。
あの時銃のマズルフラッシュで相手が女であることを確認していた琢磨呂だったが
肝心なことを忘れていた。
予備の弾丸をバッグの中に入れっぱなしにしていたのである。
バッグは手元にあるがそのジッパーは閉じられている。
相手の出方も武器も分からない状況ではチンタラ弾丸を取り出す訳には行かない。
バッグのジッパーを開き弾丸を取り出している内に相手が突っ込んできたら
目も当てれられない。
(どうする? このまま突破を図るか?それとも相手の出方を待つか?)
刻一刻と時間が過ぎていく。
どうやら既に上の騒ぎは収束したらしい。彼等が降りてきたら挟み撃ちだ。
ならば、突破しかない。
残り二発の弾丸を威嚇に使いその間に安全圏に逃げる。
そう結論を出した琢磨呂はCOLT.45
をにぎり直すと一気に駆け出した。
「こっちへ来る?! まさか!」
シャロンにとって琢磨呂の行動は以外だった。
相手が飛び道具を使う以上リーチの長さを利用して動かないと彼女は判断していたので
琢磨呂の行動に驚かされたのである。
しかし、相手から自分との距離を詰めるのは都合がいい。
すぐに彼女は茂みから飛び出すと琢磨呂に向かって日本刀を振り上げた。
「くっ!」
その奇襲を予期していたのか琢磨呂はバッグをシャロンに向かって投げつけ
彼女の胸に向かって発砲する。
ダンッ!!
しかし弾丸はシャロンの身につけていた金属製の胸当てに弾かれてしまう。
それでもシャロンがその一発でよろめいたのを見逃さず琢磨呂は再び引き金を
今度は脳天に向けて放とうとする。
ガジャッ!!
しかし、弾丸は発射されず銃はスライドしたまま動かなくなる。
「ジャムっただと!!」
薬きょうが排莢口に引っかかってしまったのだ。
その間に体勢を立て直したシャロンが斬りかかってくる。
琢磨呂もCOLT.45
でシャロンの斬撃を受け止め距離が詰まった所で彼女左足を
蹴り付ける。
「くうっ!!」
撃たれた部位を蹴り付けられたシャロンは思わず膝を突く。
ドガッボゴッ!
そこに琢磨呂のパンチが立て続けにたたき込まれる。
しかし、シャロンもバックステップで後退すると刀を構え直し突きを繰り出す。
グサッ
「グアアアッ!」
その一撃は琢磨呂の左脇腹にヒットした。
琢磨呂はそのまま苦痛に耐えられず倒れ込む。
「ハァ……ハァ……やった、の?」
殴打された顔面を押さえながらシャロンは琢磨呂を見てそうつぶやいた。
【No.39 シャロン】
【所持武器:日本刀】
【現在位置:病院中庭】
【スタンス:脱出、やる気にはなり切れていない】