014 男のコと女の人

014 男のコと女の人


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まひる

(一日目 4:13)

貴神雷贈(No.10)の死体を発見した広場まひる(No.38)が最初に感じたのは、恐怖よりも悲しみだった。
恐怖と驚きを貼り付けたまま固まっている雷蔵の死に顔を見るだけで、その死に方のおおよそは想像がつく。
「どうしてひとは、ひとを傷つけることができるのかな。」
まひるは、雷蔵の両目をそっと閉じさせ、その両手を胸の前に組ませる。
組ませた腕の下、ちょうど心臓の位置に穴が空いていた。
(このおじさん、鉄砲で撃たれたんだ)


反射的にスカートのポケットに手を突っ込むと、冷たく硬い感触が手のひらに返ってきた。
支給武器、グロック17(拳銃)だ。
貫通力・殺傷力は低いものの、銃身のほとんどがプラスチックで出来いるので軽く、扱いやすい拳銃。
非力なまひるにも十分扱えるものだった。
そういう意味で彼は、当たりの武器を手に入れたと言えよう。
しかし。

まひるは銃身を指でもてあそびながら自問する。
それは、彼が学校を出発してから、何度も何度も繰り返してきた問いだ。
(あたしは、人を撃てるの?)
(殺されそうになったら、反撃できるの?)
相手の痛み。苦しさ。悲しみ。そして日々の生活を想像する。
家族もいるだろう。友達も。もしかしたら恋人もいるかもしれない。
ちくちく、ちくちく、胸が痛む。
(あたし、人を傷つけることなんてできない。
 それで自分が傷つくことになっても。)
結局、その結論に落ち着く。


「あたし、お経とか分かんないけど。
 安らかに眠ってね、おじさん。」




(一日目 4:41)

しばらく道なりに歩いたまひるは、病院脇の小さな公園のブランコで、足を休めていた。
なんとなく揺らしてみる。
ぎい、ぎい…
全然楽しくないけど、少しだけ気がまぎれる。

その時、公衆便所の中から
「ヒヒヒ、ヒィィィ!!
 ゆ…… 許してくれ……」
甲高く裏返った、しかし悲痛な叫びが聞こえてきた。
「おっちゃん、おねんねにはまだ早いだろ」
ドスの聞いた、しかしキーそのものは男性にしては高い声が続き
ズダン、バダン。
なにやら物騒な音が聞こえてきた。
「大変だぁ!」
まひるはブランコから飛び降りて公衆便所へと数歩走り……
そこでピタリと足を止めた。
(あたしに何ができるの?)
(あたし、ひとを傷つけることは出来ないのに)

「死ぬ、死んでしまう!!」
さっきよりも一層、切羽詰った声。

(やっぱり、放っておけない!)
その後の具体的な行動など何も決めないまま、まひるは公衆便所へ飛び込んだ。


そこに広がっていたのは、凄惨な修羅場だった。
但し、まひるの想像とはかけ離れた意味で。

ぬぢゃっ、ぐぢゃっ、じゅぶぉっっっ!!
ぬぢゃっ、ぐぢゃっ、じゅぶぉっっっ!!

よく日に焼けたマッチョが、ちょび髭おじさんの上に跨っている。裸で。
マッチョは摩擦熱で発火しそうなくらい激しく腰を動かしている。裸で。
高原美奈子(No.15)と、堂島薫(No.15)だ。
「はっはっは、そうか、死ぬほどキモチいいのか!」
「ち、違います、もうダメです、カラダの限界です」
「いやよいやよも好きのうちっていうだろ?」

初めて性行為を目撃して、まひるは硬直した。
いや、この光景を目の当たりにしまったら、かの鬼畜・ランスでさえ放心してしまうだろう。
それほどの交わりだった。
エロチックさのカケラも無い。
筋肉が奔放にダイナミックにうねり、汗が、唾液が、体液が(堂島の涙も)しぶきを上げて飛び散る。

ぬぢゃっ、ぐぢゃっ、じゅぶぉっっっ!!
ぬぢゃっ、ぐぢゃっ、じゅぶぉっっっ!!

と、タカさんの腰の動きが更に速度を増した。
「うぉおおおお、おま○こ、いっちゃう、おま○こ、いっちゃう!!」
彼女はだらしなく開けた口から舌を突き出して、胸筋をピクピク痙攣させながら海老反る。
全力で達していた。
「痛い、痛い、痛い!!
 千切れてしまう、ワシのモノが千切れてしまうぅ!!」
堂島はそう絶叫し、泡を吹いて白目を剥いた。


「ふー、いい汗かいたな」
ボダボダボタッ!!
タカさんが立ち上がると、さっきまで堂島と繋がっていたところから、
小便かと疑いたくなるほどの大量の白濁液が零れ落ちる。

「よう、おまえもそんなトコでぼーっと突っ立てないで、参加したらどうだ?
 ストレス解消はセックスに限るぜ」
タカさんはとてもさっぱりした顔で、まひるを振り返った。
ぶんぶんぶん。
凄い勢いで首を左右に振るまひる。
その眼差しには恐怖と嫌悪が見て取れる。
「んあ?
 ああ、これ、別に強チン(オーサリング用語。逆レイプを指す)ってワケじゃないぜ。
 和姦だよ、和姦。
 ションベンしようかと便所に入ったら、このおっちゃんが隠れててな。
 『女をいたぶる』だの『調味料』だのブツブツ呟いてオナニーしてたから、
 溜まってんならオレが相手してやるよって。」
「は、はぁ……さようで。」
「だからそんなに怖がんなって。とって喰いやしねぇよ。」
先ほどの荒淫ぶりからは想像も出来ないような爽やかさで、タカさんははっはっはと笑った。
小麦色の肌に、真っ白な歯。真夏の太陽のような笑顔は男性的な魅力が溢れている。
(あ、このひと、悪い人じゃない)
まひるはタカさん笑顔を見て、そう感じた。
すー、っと緊張が解けてゆく。
「あ、オレ、高原美奈子。タカさんって呼んでくれ。あんたは?」
「広場まひるです」
まひるはにっこりとわらった。柔らかく、それでいて元気さを含んだ、花のような笑顔で。

「さて、と。
 おっちゃんが風邪引いたらかわいそうだから、なんか服でも着せてやっかね。」



【グループ:タカさん(No.15)、まひる(No.38)、堂島(No.7)】
【所持武器:まひる(グロック17+弾17)、不明(タカさん、堂島)】
【現在位置:病院脇の小さな公園】




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