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(いかんなー、いかん。 紗霧ちゃんもジジイたちも怯え過ぎだぞ)
ひとり小屋を出たランスが、井戸水を汲んでいた。
乾いた喉を潤しに、小屋から出たことになっていた。
しかし、真意は違った。
恐怖に凝り固まってしまった仲間たちの空気が、己に伝染せぬよう
一旦場を離れて冷静になろうと、考えたのである。
(テレポートと読心。それだけじゃないか。
体は智機ちゃんのものみたいだし、武器も銃だけ。
固体としてはよわよわだぞ、アレは)
頭を冷やしたランスの読みは正しい。
小屋組の面々は知らぬことではあれど、昨晩の仁村千佳との戦いで、
透子の弱点は露呈しているし、本人とてそれを自覚している。
(例えば…… まひるかジジイを犠牲にして、
『処刑執行』しようとした瞬間に斬りかかれば―――)
犠牲といっても、確実に殺されるとは限らない。
ランスが思い浮かべる二人は、それぞれ超野性と超速度を備えている。
透子の出現に気を張っていれば、銃撃の回避すら可能かも知れぬ。
(よし、灯台に行こう! まひるとジジイを引きずって)
井戸桶より柄杓を一掬い。
縁に口を寄せ、ごくりと一口。
喉が鳴るのと同時に。
「おいしい?」
「毒入りの水」
再びの、透子であった。
衝撃的な言葉に、ランスはぶうっと吐き出し、がはげへと咽る。
「これは、じょーく」
「でも」
「次がじょーくとは」
「限らない」
冗句などではない、明確な警告を残して。
透子は今度こそ掻き消えた。
(警告じゃなけりゃ、死んでたな……)
背筋を駆け上る悪寒と共に、ランスは理解した。
処刑の手段は、銃殺だけではないことに。
いくら集団で行動していたとしても、
一人になる瞬間は、どこかで発生するということに。
ふと物思いに沈んだり、気を抜いたりする瞬間が、
誰にでもあるということに。
それは今のランス、そのものであったことに。
ランスは考える。
強さの多様性について思いを馳せる。
かつてのライバルを引き合いに。
(ケイブリスは確かに強ぇ。無駄に強ぇ。だが……)
体格、体力、筋力、牙、爪、魔法。
殺傷力、破壊力を基準に強さを測るのであれば、
この島において、ケイブリスは最強だと断言できる。
しかし、強さとは、それだけではない。
こと、暗殺という手段を取るのであれば。
向かいあっての戦闘で無いのであれば。
時間制限も無いのであれば。
(……効率的に強いのは、あの女だ)
軽薄なこの男らしからぬシリアスな眼差しが、
透子の存在していた空間を鋭く射抜いていた。