051 利用と信用

051 利用と信用


前の話へ<< 050話〜099話へ >>次の話へ 下へ 第二回放送までへ




「……い、今まで死んだがは、
 6番タイガージョー、10番貴神雷贈、4番伊藤臭作……」
どのような仕組みでかは分からないが、ここ山麓の泉にも、定時放送ははっきりと聞こえていた。

「臭兄ィぃぃいいい!!」
突然の絶叫にアズライト(No.14)は困惑する。
「畜生!!畜生!!畜生!!誰がアニキを殺したんだ!!
 なんでだ!!どうしてだ!!誰が殺したんだ!!
 あんなに優しい男なのによぉ……どうして殺されなきゃならねえんだ!?
 残った義姉さんや子供たちはどうすりゃいいんだ!!畜生ッ!!!
 おれぁ、臭兄ィを殺したやつを許さねぇッ!!ああ、許さねぇぞ!!」
鬼作(No.05)は慟哭した。喚き散らした。身も世もあらずといわんばかりに。
醜い顔をなお醜く歪めて。
多分に甘すぎる感傷を持つアズライトは、鬼作のあまりの嘆きっぷりに、再び重い罪悪感に駆られる。
(似ているとは思ったけど、兄弟だったんだ…… ぼくが森の中で命を絶ってしまった、あの男と……)
苦渋。その思いは顔に出る。
海千山千の鬼作にとって、表情から事実を読み取ることは容易だった。
出会いの時の驚いた顔も、そういうことなのだ。
(はっは〜ん。てめえか、臭兄ィを殺した奴ぁ。)
泣き濡れた面のその裏で、鬼作は舌を打ち鳴らす。
その意味は、喜び。
(これでまたアズやんを一歩追い込めるってわけだぁ。
 くっくっく……恋心で。生存欲求で。罪悪感で。同情で。孤独感で。仲間意識で。
 ありとあらゆる感情と欲望を鎖で繋いで、お前をがんじがらめにしてやるぜぇ。)
……この男は、身内の死さえ交渉の道具としていた。

さらに彼は、情念をぶつけ、ノートに書きなぐる。
アズライトの罪悪感に追い討ちをかけるべく。
『アズライトさん、お頼み申します。この鬼作めに協力してくださいませ!!
 鬼作が帰らなくては……この鬼作すら、帰れなくては……
 ワタクシの家族だけではありません、アニキの家族も路頭に迷ってしまいます。』
涙を零しながらアズライトにすがりつく。
大粒の涙を。ぼとぼと、ぼとぼと。
(ぼくが奪ってしまった1つの命が、何人もの心を傷つけ、何人もの生活を脅かす……)
「あ、あの……ぼくでご協力できることなら、お手伝いしますから……」
罪ほろぼし。
アズライトの動機は鬼作の狙い通り。

……しかし、鬼作とアズライトは別世界の住人だ。
何故か、言葉や文字は通じても、文化風土や科学についてはお互いに全く理解が無い。
彼らは具体的な話に移る前に、それぞれの世界を説明するところから始めなくてはならなかった。

そして、2時間余りの情報交換ののち、鬼作はようやく作戦説明を開始する。





鬼作文書

(8:17)

 始めに正体を明かさせていただきます。お仲間にウソはいけませんですからね。
 この鬼作め、実は、某国軍部に所属する情報将校でございます。
 ありていに申しまして、日本に潜伏している工作員……と言うわけでございますね。


 そのワタクシがこの島でまず考えたことは、「軍部と連絡を取る」ということでございました。
 ところが、携帯電話や無線機の類が没収されているは愚か、
 村落にも電話線の一本すら引かれておらず、また電波も送受信されている場所は見当たりませんでした。
 ただ一箇所を除いては。
 学校…… 廊下を歩いているときに、鬼作めは見たのでございます。
 ワタクシどもが閉じ込められていたあの部屋の隣に、主催者の物と思しき通信機を。
 それは、ただの通信機ではございませんでした。
 ひどく旧式の……今では誰も使いこなせないようなシロモノでございます。
 しかし、そこはそれ。この鬼作めは情報将校にございます。
 少々手を加えれば、通信が可能だと踏んでおります。

 ……ですが、この鬼作め、戦いに関してはシロウトでございます。
 あのような恐ろしい主催者や不気味な手下たちの目をくらまし、学校に侵入することなどできません。
 ましてや、通信機を改造する時間など確保できません。
 そこで、アズライトさんにご登場願おうと愚考したわけでございます。
 ほンの10分……長くて20分、主催者たちを校舎の外に引き付けていただきたいのです。
 それだけあれば通信機で母国に連絡が取れますです。
 連絡さえつけば、漁船にしか見えない高速艇で、鬼作めを助けに来ること、確実でございます。

 それに、よく考えてくださいませ。
 アズライトさんがらすと・まん・すたんでぃんぐとなったとしましょう。
 そこで得られるのは自由では無く、手下になる権利でございますよ?
 すンなりと、レティシア様とやらを探す旅に出していただけるとお思いですか?
 あのそら恐ろしい主催者が。
 鬼作の望む未来も、アズライトさんの望む未来も、勝ち残りの先には無いのでございます。


『鬼作さんの計画は分かりました』
アズライトはそこまで書き記し、慎重に考える。
(主催者と、戦う……)

主催者の、虎男を倒した攻撃の正体が、分からない。
本性を晒した自分ならば、アリを踏み潰すかの如く容易に倒せるかもしれない。
逆に、歯が立たないまま謎の攻撃を受け続け、倒されても不思議が無い。
全く、読めない。
その読めなさ一点が、アズライトの生存本能をして、これまで主催者との戦いを避けさせていた。
……だが。
防御・回避に専念するとしたらどうだろう?
あれは確かに正体不明の攻撃だが、虎男の死体はどうであったか?
原型は留めていたし、衝撃で校舎の壁を幾分砕いた程度ではなかったか?
ならば、本性を晒した自分にとっては、恐るべきと言うほどの破壊力ではない。
20分程度の時ならば、稼げるのではないか。
それで、自由が手に入るなら。
この危険な賭けに乗る価値は、十二分にあるのではないか?


『やってみましょう』

アズライトは、力強く、そう記した。


(こんっぐらっっっっっちゅれいしょん!)
鬼作は口に出しかけたその言葉を飲み込み、小躍りしたくなる自分を抑える。
(おっと、すぐ調子に乗る悪い癖が出ちまったぜぇ)

……言うまでもなく、鬼作の計画は、全て嘘だった。
嘘を嘘で塗り固めた上で、嘘でコーティングしたくらいの、嘘。
ただし、彼は気付いていないが、嘘から出た真も含まれていた。
 『首輪は盗聴器だ』
信憑性を増すためのデタラメでしかなかったそれが、
結果的にこの密約が主催者に知られるのを防いでいたことを。

鬼作は計画の裏に忍び込ませている思惑を再確認する。
強い奴を、主催者にぶつける。
そこで主催者を倒してくれればよし。
もし挑戦者が主催者に倒されてしまってとしても、強力なライバルが減るので、それはそれでよし。
しかし、どうせなら、他の参加者を根こそぎ屠ってから主催者にぶつけた方が望ましい。
その時点で、鬼作が最後の一人となるのだから。
(アズやんに参加者を屠らせる方法、学校に攻め込ませるタイミング……
 まぁ、その辺のことはおいおい考えるさ。
 欲張りすぎるのはよくねぇ。今はここまでで満足しとくべきだぜぇ。)

「それでは、アズライトさんとこの鬼作めは一蓮托生、ということで。
 今後ともひとつ、よろしくお願いしますです。」
「あ、あの、こちらこそ……」
「さて、それではしばらくここで休憩をとりましょう。アズライトさんのお怪我が癒えるまで。」



                【グループ:鬼作(No.05)・アズライト(No.14)】
                【現在位置:山麓・泉】

                【鬼作】
                【スタンス:極力参加者を減らしたのち、アズライトを主催者にぶつける】

                【アズライト】
                【スタンス:鬼作の策に従う】




前の話へ 投下順で読む:上へ 次の話へ
048 三者択一(アタリなし)
時系列順で読む
057 アイテムチェック

前の登場話へ
登場キャラ
次の登場話へ
043 硝子の心と蛇蠍の心
伊頭鬼作
098 進めと止まれ
アズライト